シンガーとピアニスト
あなたは自分を未熟者だと言います。
私はその弱さを叱ります。
そしてあなたの声を褒めるのです。
あなたのその声。甘く低く、よく響く声は素晴らしい。
あなたからそれを引き出す道具が、私の手元にある、このピアノです。
古いイタリア歌曲。意味も知らぬまま、あなたは歌います。
私の想いを縛り付けた
いとしい絆、やさしい結び目よ、
私は、自分が苦しみながらも楽しんでおり、
捕われの身に満足していることを知っている。
あなたは歌うたびに私に告白し、私は歓喜しつつキーを叩く。
ふだんの生活では許されぬ想いですが。
しかし舞台の上で、稽古場で、音の世界でだけならば、相思相愛でいられます。
そのくらい良いでしょう?
もうすぐ最後の小節を弾き終えれば、それで恋歌はおしまいですから。
最終更新:2011年04月25日 01:12