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デジタル時計×アナログ時計

俺の新しい主人の部屋にはもともと壁がけ時計があった。目覚まし機能付きの俺と違って、時を刻み続けるだけの地味な野郎だ。
こいつが俺のライバルか、と思っていると、のんびりした口調で壁がけ時計が話しかけてきた。
「よろしく、デジタル時計君」
「……」
俺は無音で壁がけ時計を見上げた。よろしく?お前の役目を奪う奴が来たって言うのに。のんきなことだ。
我々の主人はずぼらだった。自分の真正面にある壁がけの時計は、電池が足りなくなって時間がずれ始めていた。
俺は今日もアラームで主人を起こす。主人の役に立っているのは俺だ、という優越感はなぜか沸かなかった。
「君はいいなぁ」
ある日俺とは違う時間をさしている壁がけ時計が言った。俺が憮然と無音で点滅していると、一人で語り始めた。
「僕にはもう、部屋の飾りくらいにしかならないから。君がそこにいるから、僕が時間を刻む必要もないしね」
その自嘲気味なセリフに、俺は切れた。
「バカ野郎!自分はいらねぇとでも思ってるのか!?」
かちりとスイッチが入り、無人の家にアラームの音が響き続ける。それは、壁がけ時計への罵声だった。自分はいらないと言う壁がけ時計がなぜか腹立たしかった。
壁がけ時計は静かに俺のアラームを聞き続けていた。俺は我を忘れて叫び続けて、自分に時が近づいていることに気づかなかった。
最後に、ぽつりと壁がけ時計が呟くのが聞こえた。
「…君が、僕に遠慮するのを見ていたくなかったんだ。君は…本当に素敵な時計なのに…」
その言葉を最後に、俺の電池が切れた。

再び気づいたとき、正面の壁には時計がなかった。捨てられてしまったのか!?俺は狼狽し、アラームを鳴らしてしまった。
同じ時を刻んでも、せわしなく追い立てる俺と違って、壁がけ時計は緩やかに時を教えた。俺とお前の仕事は同じじゃないのに。同じ時計の俺には分かっていた。そして、俺もお前に癒やされていたのに!
主人がやってきて俺の慟哭のアラームスイッチを切る。そして、壁に時計を掛けた。…あいつを。
俺は呆然として壁がけ時計を見上げた。あいつは恥ずかしそうに秒針を揺らす。
「…全部聞いてたのか」
「…うん、聞こえた。君のアラーム、大きいから」
俺達は再び黙り込んだ。いや、あいつの秒針が動く音だけが聞こえてくる。
ばつの悪さは次第に消えていき、俺はだんだん嬉しくなってきた。
「もうこれで、自分は役にたたないなんていわねぇよな?」
「…うん。これでまた、君と同じ時を刻めるよ」

ずっと、同じ時間を…