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渡せなかったプレゼント

(惨敗だ……)
これ以上なくみじめな気持ちに、思わずうずくまる。
暗澹たる気持ちをよりいっそう落ち込ませてくれる部屋の惨状からも、目を背ける。
昨夜はクリスマスイブ。世間的には恋人達の甘い夜、ということになっている。
彼氏いない歴二十ウン年の哀れなホモである自分だが、街のクリスマスムードについ浮かれて、
密かに片思い中の同僚、鈴木にアタックしてみる気になった。
二人で、買ってきたチキン食べて。ビール飲んで。ワイン飲んで。ケーキ食べて。
良い感じになったところでプレゼントの包みを渡す。
『プレゼント?何……香水? 男が男に香水をプレゼントだなんて、なんだか意味深だな』
『……そんな意味に取ってくれても俺、全然構わないよ……?』
流れる微妙な雰囲気、そして二人は……なんて。妄想してたのに。

鈴木にアポを取ると二つ返事。
「ああ、いいねー篠田。寂しいもの同士、パーッとやるか。大野も水田も呼んでさ」
「えっ、……あ、ああ、うん、パーッとね……」
と瞬く間に人数が増えて総勢8人。それが1DK6畳の俺のうちに大集合となった。
忘れていたが鈴木は、柔道部あがりのバリバリの体育会系、面倒見のよい兄貴肌なのだ。
料理は焼き肉。飲み物はビールのみならず日本酒と芋焼酎。
ホールのケーキは「めんどくさいからいいか!」と箸で無惨につき回され、
つまみが足りないからとコンビニに行って、さきいかとポテトチップスをあてに朝までノンストップ。
「大野ー、今度合コン企画しろよー」
「や、厳しいっす、この間の看護師さんでネタ切れです」
「そんなこと言ってるから、イブの夜に男ばっかりで飲む羽目になるんだぞ?
 だいたい篠田もさぁ、『男まみれのクリスマスパーティ』なんぞ、正気で企画するかー?」
そんな企画、したつもりはないんですが……

昼近くになって、ようやく一人起き二人起き、全員が帰ったのは午後になってからだった。
鈴木も、いつのまにか帰ってしまった。
テーブルの汚れていない所をさがして、本当なら昨夜渡すはずだったプレゼントを置いてみる。
香水は買えなかった。やっぱりどう考えても踏み込みすぎだろう、と思い、
鈴木が前に話題にしたゲームソフトを、中古ショップで入手した。
これなら、同僚にプレゼントしても
「たまたま目に付いたからさ、今度おごれよ」ぐらいでごまかせる。
……そもそも、そういう意気地のなさが招いた事態だったのだ。
鈴木とどうかなるつもりなんて、本気じゃない。
ただ仲の良い友達でいられればそれでいい。
そういうことなら今回の『男まみれのクリスマスパーティ」、成功じゃないか。
鈴木も楽しそうだったし。
……ため息が出る。膨大な片付けものにも、ため息が出る。
一度思い描いてしまった虫のよすぎる妄想と、あまりにかけ離れた結果に涙が出そうだ。

「悪い、悪い。片付け手伝うから。何、あいつら帰ったの? 今度締めないといかんなー」
突然降ってわいた声に心臓が飛び上がった!
ベルトをカチャカチャさせながら、鈴木がキッチンから入ってくる。
「鈴木! 帰ったんじゃなかったの?」
「トイレ借りてた。飲んだ次の日ってちょっと下すよね。
 ……あれ、それ何? ゲームランドで買ったの?」
ああ、やっぱり理想とはかけ離れている。甘い雰囲気になりようがないです。
でも、それでも、これが、神様のくれたチャンス。
いや、クリスマスだから、サンタさんからのプレゼントなのか?
昨夜じゃ、その気もないような俺に、サンタさんも渡せなかったよな。
俺が受け取る気になれば。このチャンスをものにする気があれば。
「これ、これね……鈴木へのプレゼント。前に言ってたやつ」
「わざわざ俺に?」
「……そうなんだ。鈴木にね、あげたかったんだよ。
 本当はもうちょっと、違うものを考えてたんだけどさ」
「篠田? 何で……泣いてるんだよ」
「は、はは、何でもない。……鈴木、ちょっと、話があるんだけど──」