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誰そ彼 彼は誰

「あ…おかえり」
「悪い、起こしたか?」
いいや、と首を振る姿はやはり眠そうだ。

俺は伸びをしてその辺に上着やらシャツやら鞄やらを放り投げる。
「だからシワ増えてアイロンがけ面倒になるんだよ、掛け布団はちゃんと畳むくせに」
「それは俺の物だから俺がしたいようにする。別にいいんだって」
とにかく疲れた、横にならせてくれと呻くように口にしたら、
あいつがゆっくりと上体を起こして枕元に手を伸ばした。

「今日買ってきたんだ、君がゆっくり眠れるように。いつも1時間は唸ってるからね」
小さな灯があいつの顔を浮き立たせる。
「いい香りでしょ?」
あいつの微笑みが、触っちゃいけないほど綺麗なのに何故か惹かれる。
右手で頬に触れ、そのまま輪郭をなぞってから一緒に布団へ倒れ込む。
「…これ、お前がつけてるコロンと似てる」
「へぇ、どうしてわかったの?」
「こうやっていつも抱いていればわかるさ」
何か言おうとした唇を、唇で塞いだ。



携帯の音に気付いて、悪いちょっと出る、と言いかけたところで俺の動きは止まった。
いつの間に俺服脱いでたんだ?
出る前に畳んだはずの掛け布団が敷かれてて、何でその上に俺がいるんだ?
いや、それよりもこの香りは…?
良からぬ想像を疲労困憊の4文字に置き換える。鳴ったままの携帯で無理矢理現実に戻り鞄を探る。
その瞬間に電話は切れた。履歴には非通知の文字。
布団の方を振り返る。ムスクとも何とも言えない不思議な香りが漂う。
携帯の人工的な明かりだけが、暗闇の中で俺の右手を照らしていた。