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しーずむ ゆうーひにー てーらされてー
まーっかーな ほっぺたのー きーみとぼくー

「先輩、そろそろ帰りましょうよ」
「あーちょっと待って。今、日誌書き終わるから」
着替えを済ませた部員達がひとり、またひとりと校庭を後にしていくのに、いつまでもロッカールームから
出てこない先輩を迎えに行くと、彼は机に座って日誌を書いているところだった。俺は入り口付近の
壁に背をあずけ、夕陽に照らされる横顔をぼんやりとながめていた。
最低限のひかりしかないそこでは、顔立ち本来の精悍さだけが強調されていて、シャープな鼻先だとか、
ほっそりした指の動きだとか、男にしては長めの睫毛だとか――そんなところにばかり目がいってしまう。
そのことに多少のやましさを感じたので俺は気をそらすために口を開いた。
「先輩は、もう進路とか決まってるんですか」
「うん?なんで。ずいぶん突然だな」
「いや、なんとなく……俺、このままサッカー続けていこうか、ちょっと悩んでるんですよね」
「まじ?」
驚いたように、先輩は俺の方を向いた。

「なに悩む必要があんの。俺がいなくなったら、エースの番号はお前が引き継ぐもんだと思ってたよ」
「……先輩は、選手権でも活躍して、今だっていろんなチームからオファーきてるじゃないですか。でも
俺、先輩みたいにうまくなれないし。先輩の11番引き継ぐの、ちょっとプレッシャーあるっていうか。
そんなこと考えてたらなんだか……このまま続けていく自信、なくなってきて」
「バカだなーお前……」
先輩はそう言って笑う。ただ、俺の居る場所からじゃあ逆光によって、その笑みは見えない。それでも、
こんな弱音に対してもやさしく諭してくれるようなやわらかい声のトーンに俺は安心した。
「お前が本気で悩んで、やめようって決めたときは仕方ないけどさ。――サッカー、好きだろ?」
「……好き、です」
「よし。じゃあもうバカなこと考えんなよ。俺のあとを継ぐとか、そんなことは考えなくていい。お前が
好きなようにプレーして、ずっとサッカーを好きでいればさ……そうしてればさ、俺なんかすぐ
追い越せるよ。それに俺、お前のプレー好きだし」
俺はだんだん、自分の頬が熱くなっていくのを感じていた。それが、尊敬する相手からアドバイスを
もらえたことが嬉しいからなのか、主語は違うけれど「好き」と言ってもらえたことが嬉しいから
なのか――。俺にはまだ、判らない。
けれど薄暗い部屋の中を照らす夕陽によって、この赤く染まってしまっているだろうみっともない頬が、
彼に見えないことだけ――せめてもの救いだった。