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好きで好きでどうしようもない それとこれとは関係ない

「本当に、辞めるのか?」
「はい」
迷わず答える俺に部長は少しためらって、でも引き止めようと身を乗り出してきた。
「スタメンになれたりなれなかったりするのは、監督が相手に応じて考え抜いた結果だ。身長というネックはあるが、お前のテクはうちの部にとって…―――」
「部長。それとこれとは、関係ねーっスよ」
間接的には関わってるけど。心の中で続けた言葉は部長には聞こえない。
名門と呼ばれるこのバスケ部に不満があったわけじゃない。部長でさえ時に外されるっていうのに、スタメン落ちに今更文句を言う奴はいない。
監督の鬼のような厳しさも、本気で最強を目指してのことだと誰もが知っている。同じように突っ走っている。
だからこれはただの、いや、どうしようもないわがままだ。
「……そうか」
それ以上何も言わないで、これは俺から監督に渡しておくよと退部届を手に微笑む姿に、申し訳なさと感謝で一杯になりながら部室を出た。
馬鹿だと自分でも思った。けれど何でここまでしているのか、自問自答するのももう疲れた。
答えは、どう足掻いたって一つきり。
『また、やりたいな』
耳に蘇るのは、上から降ってきたくせに、俺よりも少し高い声。
勝ちが見えてるどころか、相手に戦意の欠片もなくなったような試合を観戦する気になんてなれなくて、ちょっと外に目をやったのがある意味運の尽きだった。
会場の外のバスケットゴールでは試合を観に来てたらしい連中が1on1や3on3をやっていて、何となく眺める内にその中の一人に釘付けになった。
高い身長と、パワフルなプレー。それに、楽しくて堪んねぇとばかりに浮かんだ笑顔。
どれも自分とは正反対で、強く、強く、惹きつけられた。
解散になってからもまだその人が残っていたことも、じゃんけんで決まったチーム分けも、今は奇跡みてぇに思ってる。
今までのどんな試合より、その人と組んでの2on2が楽しかった。
別れてからも、部活に出ても、夢の中でさえもあの勝負が頭の中を回って、回って、現実の物足りなさに息が苦しくなった。
腹の底から叫びそうなほど、でけぇ願いが膨れていった。
もっと、もっとアンタと勝利を追いかけたい。
アンタからのパスを俺が、俺からのパスをアンタがキメる、あの一瞬一瞬を味わいたい。
これっきりなんて、ゴメンだ。このまま忘れられちまうなんて、嫌だ。
好きで好きでどうしようもないアンタを、どうしたって諦められねぇ。
この近くの市立に転校したばかりと言っていた。バスケ部がなかったんだと笑っていた。
これから創ると、宣言した。
敵として戦うその時まで、待ってなんていられねぇ。

お袋を泣かせ、親父に勘当される覚悟を固めながら、家へと急いだ。