※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

βエンドルフィン

 密林に生息する植物を採集するためにこの国にやってきて十日になる。
本国のお偉い大学教授殿からは、ばかばかしくなるくらい依頼料と必要経費をふんだくる事ができた。どうやら俺のような裏に通じるハンターに依頼なんかする事は御名誉に差し障るらしく、口止めの意図が多分に含まれているようだった。
 俺は三日目から、ガイドに雇った現地の美しい青年を自分のコテージに寝泊まりさせた。密林の沼と同じ色の肌は滑らかで、ひんやりと気持ちがいい。長い睫毛に隠れた黒い瞳が、ちょっとした事で敏感に潤む様子がたまらない。
「まったく…ここは天国だな。…食い物はうまいし、ずっと暖かいし。」
「外国の方でそんなふうに思われるのは珍しいですよ。皆さん、大抵こんな汚い国に長居したくないっておっしゃいます。」
「…上品ぶってる奴らにはわかんねーのかもな。俺は、手で食べるのとか、裸足で歩けるのとかも、全部嬉しいんだけど。」
汚い…なんて、この清らかな国の何を見てそう言えるんだろうか、あの豚どもは。…俺は腕の中の男をまるでこの国の化身のように感じている。隅々まで身を浸したくて、何度も何度も夢中でその体に顔を埋めた。
「…この仕事が終わっていっぺん国に帰ったら、俺こっちに移り住もうかな。そうしたらお前一緒に暮らさないか…?」
男は微笑んで、いたずらっぽく俺の愛撫をかわす。
「お前普段施設で怪我した野生動物の世話手伝ってるんだろ。…ケダモノの世話やくの得意じゃん。」
「でも…ケダモノに快楽はないんですよ。ケダモノにあるのはただの快感。」
「へぇ?」
「溺れる程の快楽は、人間の知性が初めて作り出す幻影なんです。あなたは」
惑わされてるんですよ、自分の作った幻想に。
男はそう言うと、俺にとろけるようなキスをした。
決して手に入らない恋人の幻に口づけている気がした。