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地平線

そこは、世界の果てと呼ぶのに差し支えのない場所だった。
人どころか一切の生き物の気配のない、近隣の国からも見放された荒涼の土地。
砂埃と風のほかは何人たりとも足を踏み入れぬ其処に、だがこの瞬間だけは佇む者があった。
自然のままに長く伸びた燃えるような赤毛が特徴的な、一人の青年。
外見の若さに反して落ち着いた雰囲気を纏うその男は、
先ほどここに到達してから依然、じっと動かぬままどこかを見据えていた。

「旅人さんはどこから来たの?」
「さあ、もう忘れたよ」
感傷ぶるでもなくさらりとそう答えられた少年は、納得のいかないといった顔で再び尋ねる。
「じゃあ、どこに行くの?」
幼心ゆえの単純な問いに、しかし当の旅人は一瞬口を噤む。
僅かに遠い目をして空を見つめた旅人は、彼の目を真正面に見据えて短く答えた。
「そうだな。……地平線の果てに」

――薄ぼんやりと、過去から現実へ意識が引き戻されていく。
記憶の中のその台詞は、未だ生々しく彼の耳孔に残されていた。
懐かしさを覚えるには、早い。あの時から、まだほんの二十数年しか経っていないのだから。
「ここも、地平線の果てじゃないみたいだな」
青年は、長い旅路の中で疲れ落ち窪んだ瞳のまま、其処を見つめる。
一面の広大な砂漠と、そこに堕ちていく橙色の陽の光だけが、彼の前には広がっていた。
それは彼が目指していた場所そのものであるように思えたが、
しかし、其処に彼が長年求めるものは存在しないのだった。
「……アンタ一体、今どこにいるんだよ」
誰とはなしに呟く言葉に、背を掠める追い風のひゅぅという音が重なる。
陣風に運ばれた砂塵が足元から舞い上がり、彼の表情を覆い隠した。
「ねぇ、旅人さん」
諦めに似た口ぶりで呼ぶ名前に答える声は、当然皆無だ。
それでも青年は、心のどこかで確信していた。
きっといつか、求める人に再会する事が、追いつく事ができるだろうと。
青年に旅立ちを決意させた、幼き頃の憧れのあの人に。