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死亡フラグからのハッピーエンド

「ああ、随分昔よりも夏は暑くなったなぁ。
 といってもあの頃ァミサイルで家が燃えて
 夏でなくとも十分に暑かったがな。」
くくっと隣に住む爺さんは歯を見せて皮肉そうに笑った。
爺さんが出してくれたスイカに被りつき
サンダルを履いた足をぶらぶらさせた。
「坊主、うまいか。」
蝉の鳴き声が遠く響く。
うん、と頷くと爺さんは目をくしゃっとさせて、
そりゃいい、と笑った。
「お前さんはよく焼けてるな。
 野でも山でも駆け回ってんだろ?
 俺ァガキんときゃ体が弱くてな、
 なまっちょろい体に真っ白な色してたよ。
 そのせいで戦争にさえ行けなかった。
 ま、そのおかげで今もこうやって生きてんだけどな。」
そういった後この爺さんの憧れの源さんの話が始まった。
何度も聞いたよと訴えても何度でも聞け坊主、
と理不尽に諌められるので黙って聞くようにしている。
源さんとやらはこの爺さんの憧れていた人で
その武勇伝は数知れない。
例えば山に言ってはウサギだのイノシシだの熊だのを狩って
皆にふるまっていたことだの、
日射病で倒れた子供を担いでは10キロ先の病院まで運んだだの
もちろん尾ひれはついていると思うが
とにかく爺さんはこの源さんとやらをとても尊敬していたらしい。
今の爺さんの喋り方も源さんの喋り方が
うつってしまったのだという。
「あんな人が逝っちまうなんてなぁ。
 あの戦争で一番失って惜しかったものはあの人だよ。
 あの人が死んで俺は一人で60年も生きちまった。」
爺さんは遠い目で呟いた。それは嘆いているようにも見えた。

なぁじいさん、と声をかけ
俺は爺さんがポストから取り忘れていたであろう手紙を渡した。
白い封筒からでてきたのは一枚の手紙と
色褪せて黄ばんだもう一つの封筒。
古惚けた封筒の差出人は富田源造と書いてあり、
白い手紙は爺さん宛の手紙が蔵から出てきたということでの
源さんの遺族からのものだった。
源さんからの封筒を切り、
爺さんは少しの間、読むでもなくじっと見つめ
何度も何度も繰り返し指で文字をなぞったあと
灰色の瞳でじわりと涙を浮かべそれが皺くちゃな頬を伝う。
爺さんの声が震えている。
「源さん、俺ァ幸せだよ。
 アンタは還ってこなかったが、俺ァ今幸せな気持ちで一杯だよ。」
爺さんはそういった後、
ありがとう、ありがとう、と抱きしめてきた。