※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

駄菓子屋

アイス食いたい。

部活帰りに寄り道して久々に小学校前の駄菓子屋に足を向けたら、
店先を絵に描いたような外人の兄さんが行ったり来たりしていた。
「あのさ、…日本語オーケー?」
「あ、はい。大丈夫です」
金髪碧眼、貴公子みたいなその兄さんは、予想外に流暢な発音で俺に答えた。
「ここのばあちゃん耳遠いから、この呼び鈴押さないと聞こえないんだ。」
俺らの代から学校前と言えば万引き商店、とかも言われていた。
まあ実際は、近頃のガキは駄菓子屋で万引きするほど貧しくもかわいらしくも
ないし、最近は小学校の警備員もいるんで実害はそれほどでもないんだそうだが。

呼び鈴で出て来たばあちゃんは相変わらず無愛想で無口で小さかった。
俺はばあちゃんにアイスと言って小銭を渡し、クーラーの中をまさぐった。
「あとさ、ばあちゃん、そこの外人さんの兄さんがなんか用みたいよ?」
俺がでかい声でそう伝えると、ばあちゃんはじろりと兄さんを一瞥した。
「あ、あの、……私も、彼と同じものを一つ、いただけますか?」
ばあちゃんは兄さんから小銭を受け取ると、無言でまた奥に引っ込んでいった。

店の外の色あせたベンチに並んで座って、俺達は棒アイスをしゃぶった。
「……うまい?」
俺が訊ねると、
「そうですね」
兄さんは笑った。俺も、なんだか楽しかったので声を出して笑った。
「本当はお店の写真を撮らせてくださいと、お願いするつもりだったのですが」
「えっ、なんだよ!じゃあなんで言わねーの」
「あの老婦人の気難しそうな顔を見たら、申し出る勇気がなくなってしまい……」
そう言うと、情けなさそうな笑顔を俺のほうに向ける。
……うわ、まじまじ見ると、めちゃめちゃかっこいいなこの人。
「…写真、何に使うの?仕事とか?」
「いえ、日本の街並を、故郷の家族に見てもらいたいと思って。」
「そっか、ならいいじゃん!撮っちゃえよ。つーか俺が撮ってやるよ」
俺は兄さんの手からデジカメを奪うと道路に出てカメラを構えた。
「ええ、あ、あの、でも…!」
「いーからいーから。よし、笑ってー」
フレーム越しに、溶けかけの棒アイスを持って困り顔の兄さんをとらえると、
俺はシャッターを押した。
「……もう。じゃあ、貴方も」
そう言うと、兄さんは俺にアイスを渡してハンカチで自分の手を拭い、
俺からデジカメを取り上げた。
「こっちを見てください。いいですか?」
俺はカメラの向こうのその人の眼差しを思うと何だか照れてしまい、
思いっきり変な顔をした。

「写真ができたら送りますね。」
別れ際に俺と兄さんはメールアドレスを交換した。
帰り道、妙に気分がうきうきして、俺は家まで走って帰った。