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どうして自分じゃなくてあの子なんだろう

ずっと、欲しかったんだ。
俺は震える手でそっと彼の頬に触れた。
酒に潤んだ目には普段の鋭い光は宿っていない。
いつもは堅く引き結ばれた口元も、わずかだけど弛んでいる。
頬から瞼、額へと、触れるか触れないのかのタッチで辿っていく。
短く刈り込んだ髪が、触ると意外に柔らかいことを知った。
俺は手をとめて、じっと彼の顔を見た。
酔いに濁った目は俺を映しているのに、何も見ていない。
「……も……」
何か呟いたと思ったら、急に腕をとられて引き寄せられた。
びっくりして固まっている俺の腰を硬くてゴツゴツした指先が掴んで、
服の下に無遠慮な手のひらが潜りこんでくる。
「ちょ…ちょっと滝…!?」
本当に酔ってるのかと疑いたくなるような巧みさだった。
硬い指先に官能を引きずりだされて、あっという間に茹で上がる。
酔った男は、しきりに何かを囁いていた。
「……とも………とも……」
繰り返される言葉は、誰かの名前を呼ぶ声だった。
急に体が冷えていく。なのに頭の芯だけは熱が去らない。
―――こんなに、
こんなに好きな人の一番傍にいるのに、その目に俺は映ってなくて、
肌を合わせて、熱を分け合って、だけど彼の心はここにはなくて、
「馬鹿だ………俺…」
なんで喜んでるんだろう。それでもいいと思ってしまえるんだろう。
まるで針金の指で鷲掴みにされたみたいに、胸がキリキリと痛む。
自分への自嘲と、トモという見たこともない子を羨んで、胸がひどく灼けた。