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一万円札×千円札+五千円札

「おい滝、こーら起きろ」
 よく知った声が耳元でする。ちかちかと、規則正しい音と低音でまとわりつく振動が、なんだか耳障りだ。
「う? 何ですマキさん……」
 好きなひとの声がこんな近くなのに、本当にうるさいなこの音。
「おめー酔い過ぎだ。タクシー着いたぞ」
 ほれ、と乱暴に引き起こされる。しっかりした胸に転がり込んで、俺はその時多分笑ったのだと思う。
「平和な顔しやがってこの。財布出せ、払っとくから……って、げ。おめー五千円と千円一枚ずつしかねーのかよ、やっべー……あ、済みません運転手さん。俺も降りますから。はい、確かに。おら立て。滝、タキ? シノブちゃん、いー加減にしねーとだっこするぞ」
「はぇ?」
 両足と背中を支えられて、俺は耳障りな空間から連れ出された。
「マキさんなに……」
「おめーが面倒がって金降ろしとかねーから俺までタクシー代なくなっちまったぞ。今夜はお前んちに泊まりな」
「え、今何……」
 このひと今何て言った? 俺は好きなひとの腕に抱かれながら、酔っ払った頭を懸命に動かそうとする。
「後で一万円、返せ」