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お前は幸せになれば良い。

清潔なシーツに横たわっているあいつの姿を見て、俺は泣きそうになった。

友人を通じて伝えられたあいつの不慮の事故。
俺が病院にたどり着いたころにはあいつの家族が涙に濡れたハンカチを握り締めていた。
嫌なもやもやが俺の心にわだかまる。
おばさんが俺の姿を見つけて駆け寄ってくる。
泣きすぎのせいか、瞼はパンパンに腫れ上がっていて、俺はその顔だけであいつが今どうなっているかわかった。わかってしまった。
「散歩に出かけてくるって言って……そのまま……ひき逃げですって……どうして……」
しゃくりあげながらおばさんは言う。
「あいつは……」
「見に行ってあげて。顔は綺麗だから」
おばさんがそう言ってくれたので、俺は静かに病室に入った。病室には看護師とあいつだけ。
看護師は俺を見て、すっと一歩下がる。あいつの顔に薄くかけられた白い布をそっと取ると、まるで眠っているような顔があった。
涙が零れた。言いたいことがいっぱいあった。どうしても好きだと言えぬまま、ずっと馬鹿ばかりしていた。
けれどあいつはもうこの世にいない。想いを伝えることが出来ない。
と、看護師が俺の名前を確かめると、何かを差し出した。
救急車の中で延命活動をしているときに、かすかに意識があったあいつが遺した言葉なのだという。救急隊員の走り書きの文字で、
「俺はもうだめだ。お前は幸せになれば良い。俺なんか忘れて」
そう書いてあった。
俺はその文字が書かれた小さな紙切れを押し抱いて、また涙を零した。

あれから五年がたったけれど、俺は今もあいつの遺言を持ち歩いている。