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ヒトメボレ×ヒトデナシ

この部屋に入居してまだ二週間ほどのことだ。
カタン、と物音がした。振り返ったけれど、誰もいない。
(気のせいかな。)
そう思っていると、また、カタンと物音がした。

不動産屋が破格の値段で持ってきた物件だけに、なにか周囲に問題でもあるのかと思っていたけれど、
今のところそれはない。むしろ、周囲はとてもよくしてくれる。
「わざわざこんなところに来なくたってよかったんじゃないの?」
そういう声もあったけれど、気にしていなかった。そう、……その日までは。

〔カタン。〕
ぼくは振り返る。不自然な物音は少しずつ近づいている。
〔カタン、カタカタ。〕
ぼくはばっと振り返った。すぐ後ろに聞こえる物音に、心臓をびくつかせながら。
と、出し抜けに、
『ここ、ぼくの部屋です』
そんな声がした。か細い、ボーイソプラノのような声。
ぼくはがたんと立ち上がって数歩後ずさると、そこに揺らめいている人影を目の当たりにした。
やわらかそうなくせっ毛とメガネが特徴的な、でもごく普通の青年に見えた。……透きとおっているということを除けば。
青年はどこかおびえているような表情で、けれどとても澄んだ瞳をしていて。
……ああ、昔飼っていた子犬に似ているな。
ぼくは何とはなしにそう思った。その瞳につい釘付けになっていたのは、きっともうその瞬間にぼくの心が奪われていたからだと思う。

そして今、ぼくはこの部屋の大分前の住人であったこの青年との奇妙な同棲生活を続けている。


……僕はそう言うと、目の前のろうそくを一本消した。
横で微笑んでいる彼の姿は、おそらくぼくにしか見えていないに違いない。