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愛するが故に別れる

金曜の夜、待ち合わせをして食事に行った。近くの映画館でレイトショーを見て、缶ビールを
買って奴の部屋に二人で帰った。こんなデートらしい事をしたのは何ヶ月ぶりだろう。
玄関に足を踏み入れるなり、背後から羽交締めにされた。俺は、こいつに腕力では敵わない。
「…とりあえずビール、冷蔵庫に入れたいから、ちょっと離して。…な?」
奴は俺の首筋に顔を押し当てたまま返事をしない。息を押し殺して、ただしがみついている。
こうなってしまうともう話しかけても無駄なので、俺にできるのはせめて変なところで押し倒
されて怪我などしないように、うまくベッドまで誘導する事くらいだ。

「浮気、してないよな?」
所々壁にぶつかりながらもつれるように寝室に傾れ込むと、噛み付くようなキスの後に
奴のかすれた声がそう言った。ようやくしゃべった言葉がそれか。
「…ごめん、俺お前がいないとやっぱり、ダメだ。」
「…別にいいだろそれで」
「でも、お前といると俺…だめなんだよ。お前の事しか考えられなくて、気になって…」
「それは俺のせいじゃなくて、お前がもとからだめなんだ。馬鹿。」
「うん…なあ、俺はどうすればいいのかな。別れるなんて…お前が他の奴のものになるなんて
 耐えられない。お前を殺してしまおうかとも思ったけど…それもやっぱり嫌なんだ。」
目に涙をためて苦しそうにつぶやく愛しい人を、俺はただ抱きしめるしかできなかった。
「…俺はお前の事を守りたい。」
俺がそう言うと、奴は少し目を細めて、それからもう一度キスをしてきた。

奴が眠ってしまったのを確認して、俺は部屋を後にした。
こんなふうに目の前から消える事しか思いつかないなんて、情けない最後だ。
…どうしてこんなことになってしまったんだろう。
愛しい面影はまだ、俺の体と心の芯に刻み込まれているのに。