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アナリスク

 俺には物心ついたときからおかしな性癖があった。
死んだ人の声や姿がわかったり、他の人に見えないものに話しかけられたり。
どうしてもわかって欲しくて両親には何度もそのことを話したけど、その度にひどく叱られ、
次第に彼らが俺を疎ましく思っているのを感じるようになった。…しかたのないことだった。
父は公の場に名の出る立場にあったし、母はその父を支え、兄弟達にしかるべき将来を与える
事に全人生を捧げていたから。だから俺に許されたのは、なるべく目立たないように生きてい
く事だけだった。
 しかしどんなに自分を抑えて生きる人間も、絶望は見逃してはくれない。高校にあがった
日、父から大学には行かなくていいと話された。高校を卒業したら本家に入り、田舎に隠居
している大祖父の世話をして暮らすように言い渡されたのだ。
 それが、これから自分が生きていく一生……そう想像すると、目の前が真っ暗になり、これ
までなんとか遠ざけてきたたくさんの蠢くものが、俺の体をいっせいに取り巻いた。足が自然と動いて、気がつくと見知らぬビルの屋上に裸足で立っていた。…「死にたくない」と呟いて
みたが、その響きがあまりにそらぞらしくて、笑ってしまった。まるで夢でも見ているように
俺は傍観した…自分の体が軽々と柵にのぼって、楽しげに空中に身を投げ出す感覚を。

 彼が俺の人生に現れたのはその時だ。俺の体は彼の腕に抱えられ、彼の呼びかけの中で
俺の精神は重力を取り戻した。…誰かにそんなに力強く手を握ってもらった事がなかったので
まるで心臓を握られているような気持ちになって、俺はそのまま気を失ってしまった。

「あなたのいるべき場所はここではありません。」
 今俺は、インチキ霊能者をやっている。
と言っても頼まれる霊視、占い、除霊の類いは誠心誠意努力してなんとか遂行できている。
インチキなのは主に、彼が俺を売り込むために用意したどう考えても逆効果なうさんくさい
触込みや(中には信じている人もいるが)、竜宮殿頼朝なんていう妖しい芸名の方だ。
 それでも、俺は今とても充実している。自分にできる事が、誰かの役に立つ。自分を抑えて、人の迷惑にならない事だけ考えて生きていた日々には想像もできなかった事だ。
「俺と一緒に、思いっきりおもしろおかしい人生を目指さないか?」
そう言って手を差し伸べてくれた彼の隣でなら、俺はどんな事だってできる気がしている。



「…克之、」
「なんだよ。」
「アナリスクってなんですか。」
ぶはっ
「…な、なん、だって??」
「亡くなった方がどうしても生前やりたかった事で、それが心残りで成仏できないそうなんだ
けど、俺の体を使って体験させてあげる事はできないかなぁと思って。」
「……いいから成仏してもらいなさい。」