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雨中の銃声

かつかつとしつこく音を立てる自分の革靴に舌打ちしながら、それでも走り続けた。
先行して走る奴の姿は、決して見失わない。必ず俺が捕まえる。
鬱陶しい霧雨は俺のスーツをずっしり重くしてくれたあと、むかつくような大雨に変わった。
でも、だからこそ解った。奴が俺に追いかけて欲しいんだと。
いつまでも開かない、この距離が証拠。

この小路を行って、上手くすれば追い詰めることができるかも知れない。
思いつきだったが、俺の行動は足音で筒抜けなはずだ。でも奴は来る。俺に捕まる為に。
俺が仕掛けた行き先に奴は乗ってきて、確信は深まる。
雨の匂いに混じって海の匂いがする。この先を行けば。
俺が仕掛けた行き先に奴は乗ってきて、確信は深まる。
雨の匂いに混じって海の匂いがする。この先を行けば。
狭い道を抜けたら、そこは港の小さな角だ。
道は倉庫の間を抜ける、俺が来た道しかない。
俺を振り返って笑っている奴から距離を置いて、俺は足を止めた。
「もう、逃げられないぞ」
「解ってるさ」
不敵な笑み。何かを企んでるに違いない貌に、俺は身構えた。
「お前に追いかけて欲しかったからな。望みは満たした。
悔いはないよ。・・・明日、体中が痛いに違いないこと以外はね」
「明日だと?!」
むかむかした。まだ観念してないのか?俺に、この俺にこんなに走らせておいて。
許さない。
「許さない」
「だろうな」
奴は組んでいた腕を解いた。弓手には装填済みのデリンジャー。
俺は体を半身にして出方を見る。場合によってはすぐ逃げられるように。
「そう。俺はずっとこうしたかったんだよ」
「何だと」
「俺はずっと、お前とこうやって話をしたかったんだ。・・・でも、お前は無理そうだな」
「このっ・・・」
取り押さえる隙を狙ってたが、無理やり動こうとした。俺に向けられた銃口がひくりと動いて、
湿った空気の中、銃声が二発響いた。
ぽこぽこん、と額に何かが当たって、「いてっ」と声が出た。
額に当たった弾を受け止めて見てみると、俺が大好きなシルバー工房のカフスがふたつ。
「誕生日、オメデトー」
「・・・あのなぁ、」
「日付変わったし。今まで逃げるのシンドかった」
小雨になりだした雨の中、ふうっと息を吐いて、奴はその辺の箱を引き寄せて座った。
「誕生日祝ってくれるなら、何もこんな手の込んだことしなくてもいいだろ」
「演出は大事でしょ」
そうかもしれないが、やりすぎだ。シルバーだって傷んじまう。
それでやっと思い至って、手に握りこんでたカフスをハンカチで包んだ。ハンカチもびしょ濡れだったが仕方あるまい。
「それにお前、俺のこと避けてたし。雨降り出したけど、早い方がいいだろう?」
「・・・避けてねぇ」
「就職オメデトウ、もちゃんと言いたかったのにな?」
だからカフスなのか、と。
自称やくざな自由業のそいつは、そのやくざな自由業が、至極真っ当な職についた俺にとって何か迷惑だとでも考えたのだろうか?
馬鹿馬鹿しいにも程がある。
「部屋に戻ろうぜ。俺がどんだけお前を好きか、きっちり解らせてやる」
言うと、奴は笑って。
俺の大好きな彫金師は、懐から折り畳み傘を取り出した。