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どうして自分じゃなくてあの子なんだろう

右の手のひらから、伝わるぬくもり。
僕はそれがとても好きで、宝箱にしまっておきたいほど大切に想っていた。
けれど、小さなその手はやがて大きくなった。
僕の右手も、あいつの左手までとはいかないが大きくなった。
ぬくもりを感じることも少なくなったけど、
それでも背中合わせで本を読んだりくすぐり合ったりしてじゃれていた。

いつかその日が来るのを覚悟しながら、僕らはまだぬくもりを交わしていた。
それは今日の夕立のように唐突なものだとも、わかってはいた。
でも、今の僕の右の手のひらには、木の葉から落ちた雨粒だけが伝う。
「すぐ、戻ってくるから」と言い残したあいつの姿が、
朧気に揺れる影へと向かって行きだんだん見えなくなる。
わかってる。あいつのあの目は真剣だって。見えない背を追う。

空っぽの右の手のひら。雨粒がぬくもりを奪う。わかって、いたのに。
雨と一緒でとめどなく溢れて流れ落ちる…何なんだろう、この行き場のない感情は。
力なく垂れた僕の手のひらが、じんじんつめたくなっていく。