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傍若無人なくせに天然

「へへへ…観念しろよ。こんなとこに誰か来るとでも思ってるのか?」
「っ…く、……ぐぁ…!」
茶髪の男に容赦なく脇腹を蹴り飛ばされ、床に蹲る俺を見下ろして、他の二人が下卑た笑い声をたてた。
…迂濶だった。次に試合で当たるF高は、退部させられた生徒の中に、教師も手を焼く問題児がいると聞く。
「探り入れると『不慮の事故』が起きる」という噂はこういうことか…。気づいた時にはもう遅い。
「お前、二年の諸井だろ?いろいろ聞いてるぜ、K高の期待の星とかって」
「どんな奴かと思ったら、ヒョロっこくて女みてえじゃねえか。こりゃ別なほう期待したくならねえ?」
「だははは、お前最っ低ー!!俺ぁてっきり、腕捻るくらいでいいかと思ってたのによ」
「優しくしてやろうぜー、アッチのほうも脆そうだしな。モロイだけに」
「さぶっ、笑えねー!!」
などと言うくせに嘲笑する声に吐き気を覚えた。何を期待されているのか、見当がついてしまって愕然とする。
…が、こんな状況下、考え込んでもどうにかなるわけじゃない。いざとなったらイチモツ噛みちぎってやる。運を天に任せることにする。
それよりも、
「ひ、平木は、……どこに、いるんだ…」
一緒に来ていた後輩の姿が見えない。それが何より気がかりだった。…何しろあいつは、
「あ?ヒラキ?あのオドオドしたやつか?」
「あいつなら、北棟の理科室教えてやったらすっ飛んでったよ、ひはは!」
「マジかよ、正反対じゃねえか!!可哀想だろー、ここ体育館なのに、」

「あったー!!」
瞬間、物凄い勢いで扉が開いて、
「ぶは!!」
飛び込んできた黒い塊に、一番手前にいた男が容赦なくふっ飛ばされた。
「へ、…うわあ、ごめんなさーい!!…ど、どうしよう、白眼むいてる……」

ほらな。こいつは、…平木は、いつも何かやらかすんだよ、必ず。

「なっ…、て、テメー、なんでここに……」
「ちょ、俺ちゃんと北棟って言っ…」
唖然とする奴らも目に入らない様子で、平木は気絶した男にぺこぺこお辞儀して詫びていたが、顔を上げた時に俺と目が合うと、
「諸井先輩っっ!!よかった、ここにいたんですね!?理科室分からなくて迷っちゃって…!!」
涙目で飛び付いてきた。…うぐっ、は、腹が痛い…蹴られたとこが…。
「…いや、今も迷ってんだけど」
「あっ、あなたはさっきの!ありがとうございます、おかげでたどり着けました!」
「あ、…ああ、…えーと」
勘違いしたまま満面の笑みで頭を下げる平木に、どう返答してよいものか分からないらしく、つられてそいつも頭を下げた。すぐに隣の茶髪に殴られていたが。
「急にいなくなっちゃったから心配したんですよ!?どうして理科室なんかに…!あと、先輩のことずっと尊敬してます、大好きです!」
「ここどうみても理科室じゃないだろ!つーか大好きって何だよ突然!」
「あの人が、『中のヤローに告白でもしろよ』って言うから」
「…あ、それ、人体模型のつもりで…」
首をかしげる平木とため息をつく俺に、
「…おい、漫才やってる暇なんかあんのかよ」
ドス黒い怒声が降ってきた。リーダー格の茶髪が口元をひきつらせながら仁王立ちしている。
…まずい、完全にマジギレしている。
「ふざけやがって…調子狂わすんじゃねえよ、貧弱校のクソ共が。マジで試合に出れなくしてや…」
「あーっっ!!」
…鼓膜破れるかと思った。耳元だぞ、おい…。
突然の平木の大声に、奴も驚いて口をつぐんだ。
「すごいですね!こちかめが全部揃ってる!!」
…漫画に感動したようだった。
「ああ、これ、この部の伝統で、創部以来ずっと」
「テメーはもう黙ってろ!!」
さっきから親切だった彼を拳で床に転がすと、茶髪の男は鬼のような形相で俺達に向き直、
「読ませてくださーい!!…あだっ!?」
「って、はぁ!?…ふごっ…!!」
壁の本棚に駆け寄る平木の額と、そいつの顎がもろに衝突し、…次の瞬間には、平木が奴を腹の下に敷きながら倒れ伏していた。
「…お、おい、大丈夫か…?」
「痛ーっ…は、はい、大丈夫です…!」
「いや、お前よりも下の奴…」
80キロを超えるこの巨漢をまともに食らったのだ、打ちどころが悪ければまずい。
…幸いにも外傷はないようだったが、頭を打ってのびていた。

「うわあああっ!!ごめんなさい、ごめんなさい…!!」
他の生徒が物音を聞いて駆けつけてきた時には、屍のようになっている三人の傍で、
泣きながら土下座する平木と、処分を覚悟して頭を抱える俺がいた。
…幸いにも処分は教師からの注意だけで済み、生徒達からは逆に感謝されたのだから、俺も平木も運が良かったようだ。
平木だけは何がどうなっているのか状況が読めておらず、きょとんとしていたが。

それと、数日後の試合で、まだベンチの平木が、F高生から誰よりも畏怖の目で見られたのは言うまでもない。