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ヤンデレ


「お前が死んだら俺も死ぬよ。だって俺お前のこと愛してるもん」
かつてそう言って笑った男は、今、目の前で呆然とした顔をして立ち尽くしている。

……ねぇ、おい、俺が死んだらお前も死ぬんじゃなかったのかよ?
俺は今すぐにも死にそうなんですけど。後追ってくれるって言ったじゃんか。
死ぬのなんか簡単だろう? 手首を逆さまにして、ほんのちょっと腕を動かせばいいんだ。

うわあ目の前真っ赤っ赤。
これ血の色か。お前の両手も真っ赤に見えるよ、俺の好きな指先が、真っ赤、ああでも
これは錯覚じゃない、そうだ、俺の血だ。

ちょっとした、よくある喧嘩だった。手にした包丁はものの弾みだった。

夢なんてものは持ったことは無かった俺にも思い描く未来はあった。ただしマイホームで子どもが
二人に白い犬、なんて柔らかくてぽやぽやしたもんじゃない。
俺がぼんやりと求めた未来はその死に様だった。
どうせ死ぬなら、恋人に殺されたい。殺されたい。そして俺を殺して、死んでもらいたい。
理想的な悲劇。

だからお前がああ言ってくれたとき、俺がどんなに嬉しかったか、ねえ、分かるだろうか。
こいつなら俺にそれをくれるかもしれないと思ったときの、俺の気持ちを。分かるだろうか。

(だからさあ死んでくれ、今ここで、俺と一緒に)
(早く行って、ここから逃げて、生きて。生きて生きて)

自分が今死んでいくことに、悔いや恨みは全く無い。本当にこいつの手で死ねることが、ただ嬉しい。
ああでも目の前のこの男には。死んでほしい。生きてほしい。
何が何だかもうよく分からなくなって、俺はいよいよ重たくなってきたまぶたをそっと閉じた。
さいごのさいごに俺は、多分、少しだけ笑っていたんじゃないかと思う。