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青春だねぇ

俺には今好きな人がいる。すごく格好良くて、すごく優しい年上の人。
購買部に行けばその人に会える。笑顔でパンを売っている。
原田祥子さんと言うのだと、俺は最近知った。苦心の末、さりげなく聞き出せた。
空が爽やかに晴れた日。今日もまた俺はそこに向かう。
しかし問題が一つ。…明らかに俺の後をつけている奴のことだ。
「おいっ」
声をかければ、隠れているつもりの影はびくりと跳ね、そろそろと出てくる。
「テメーだってことはバレバレなんだよ、矢内」
矢内は小動物のような目と大きな体のアンバランスさが恐ろしい1年だ。
何かと俺を慕ってついてきてくる。それは別に嫌じゃない。
でもこの時間は、この時間だけは俺の至福の時間なのだ!邪魔されてたまるか!
「ついてくんじゃねえ!うぜーんだよ!」
一喝して足を速める。しかし矢内はなおもついてくる。こいつ…。
俺は階段を上がる途中で矢内を振り返って、また怒鳴りつけようとした。
しかし俺はバランスを崩して、ぐらりと後ろに倒れこむ。
やば、なんて思ったのと、俺の名前を矢内が呼んだのはほぼ同時。
覚悟して目を瞑ったのに、体のどこも痛くなかった。床に触れた感触すらもなかった。
おそるおそる目を開けると。矢内がにっこりと微笑みながら、無事でよかったです、と言った。
俺を抱きかかえながら。
矢内の広い手は俺の腰に回り、矢内の広い胸に、俺の体は預けられていた。
うわあああ、と俺が叫ぶより早く、あら、と春先の穏やかな風のようなうららかな声が聞こえた。
搬入途中の祥子さんだった。
「青春だねぇ、きみたち」
間延びした祥子さんの声は、この時ばかりは恨めしかった。