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正統派RPGの勇者と魔王

黒く長い髪に金色に煌めく瞳、豪奢な刺繍の入った漆黒の衣を身に纏う男がひとり、暗闇の中に佇んでいる。
彼は「魔王」だった。人類が文明を築く遥か以前より存在し、数多の魔物を従える魔族の王。
いつしか地上を我がもの顔でのし歩くようになった人類と、過去何度も地上の覇権をかけて争い
その度に勇者の力を持つ人間に倒されては地の底に封印されてきた。
そんなことをもう何百年も繰り返している。
今回もその繰り返しの中のひとつだった。長い時間を経て緩んだ封印を破り、魔王は再びこの世界に姿を現した。
早速各地に魔物を放ち、幾つもの国を支配下に置いた。
魔王城は連日の宴に沸いたが、魔王の心は満たされない。未だ己を倒すに値する「勇者」が現れないのだ。
兆しがあったのは半年ほど前だった。
辺境の国からひとりの少年が旅立った。取るに足らない存在であると思っていたのも束の間、破竹の勢いで
魔王の軍勢を打ち払い、それに応えるかのように人間たちの勢力は盛り返して行った。

そして今、伝説の勇者と呼ばれるようになった少年はついに魔王城へと駒を進め、今まさに王の玉座へと
辿り着こうとしている。
魔王は封印から解かれて初めて血が滾るのを感じていた。
もしかしたら自分は「勇者」に倒されることを待ち望んでいるのかもしれない。
彼は既に繰り返しに飽いていた。たとえそれが再び繰り返される戦いまでのほんの僅かな休止であったとしても
終わりが欲しかった。
そしてその望みは、今まさに叶おうとしている。王の間へと続く廊下に足音が響き、待ち望んだ「勇者」の姿が
魔王の金色の瞳に映り込んだ。
鎧を纏い剣で武装してはいるが、まだあどけなさの残る16、7の少年。何よりも他に仲間を連れずにひとりで
現れたことに魔王は少なからず驚きを覚えた。
今まだの勇者は数人仲間を従えていたのが常であった。それがひとりとは、面白い…魔王にたったひとりで挑もう
というほど、己の実力に自信があるとでも言うのか。
繰替えしの中の僅かな変化すら彼にはひどく好ましい。魔王は密かに笑みを漏らすと「魔王」として勇者に最初に
言葉をかける為に口を開いた。
「君可愛いね」
「…は?」
第一声を勇者に阻まれて、魔王は思わず間の抜けた声をあげた。
聞き間違いかとも思ったが、キラキラとしか形容できない瞳でこちらを見上げる勇者の顔を見ていると、どうやら
本当に勇者の発言に間違いないらしい。
思わぬ事態に呆然とする魔王の手を取ると、勇者は水を得た魚のように生き生きと話し始める。
「何度も地下に封印されては復活する魔王だって聞いたから、どんな蝉モドキかと思ってたのに、まさかこんな
オレ好みの美人さんだったなんて、オレ超ラッキー!やっぱ若い時の苦労はするもんだね!
これぐらいのご褒美がないと勇者なんてやってられないよ」
「そ、そうか」
「うわ~声も好み!ねえねぇ、声に色気があるって言われたこと無い?あ、ゴメンね自己紹介も無しに
オレは勇者。ゆーちゃんって呼んでいいよ、君は魔王だからまーくんって呼んでもいい?
なんていうか、あだ名で呼び合うとぐっと距離が近づいた気になるよね」
「そ、そうか…じゃない、貴様は辺境の王から派遣された勇者であろう!それがこのような世迷言を口にして
いいと思っておるのか?」
思わず勇者に流されかけた魔王だったが、危ういところで持ち直すと魔族の王らしい威厳をなんとか整えた。
「いいよ別に。王様はろくな装備もくれないくせに、お前は勇者の子孫だ~云々とか電波受信して
イタイケな少年を過酷な旅に放りだすようなヒトデナシだし、あいつ絶対にドSだね」
頼りの勇者に散々な言われようである。
「それにさ、聞いてよまーくん。うちのパーティ最悪なんだよ。神官は聖職者のくせにタンス漁って捕まるし
魔法使いと戦士は恋愛はじめちゃってさ、苦難を乗り越えるうちに愛が芽生えましたとか、当人たちにとっては
燃え上がるかもしんないけど、あぶれたもんにとっては超気マズイんだよね」
今度は勝手に愚痴りだした。しかも許可してないのに既にまーくん呼びである、お前こそ人から空気が読めない
男って言われたこと無いのか。
「こないだも夕食の時間になっても戻ってこないから、探しに行ったら宿屋の裏でちゅーしてんのちゅーよ?
それもかなり熱烈に。嫌だね今時の若いもんは節操がなくて」
「…貴様にだけは言われたくあるまい」
「そうかな?こう見えてオレ照れ屋さんなんだけど。まあいいや、そんでさ~あんまり耐えきれなくなったから
宿屋に置いてきちゃったんだ。元々あいつら戦闘中もお互いしか庇ってなかったからね、ひとりで戦うのももう
オレ慣れっこだから…オレも恋人欲しいよう欲しいようって毎晩お星さまにお祈りしてたらこれだよ、やっぱり
神様はちゃんと見ててくれたね、思い描いた通りのドストライクの美人キタよコレ、これはもうモノにしなきゃ
伝説の勇者の名が泣くってもんさ」
多分もう泣いてる…っていうか、仲間がいない理由がそれかよ。
「とにかくオレが言いたいことはさ、仲良くちゃおうよ勇者と魔王がくっつけばもう争いとかなくなるし、オレは
ハッピーになれるし一石二鳥じゃん」
「…私にとっての利益は何も無いように思えるが」
「オレが魔王城にお婿に来てあげるから安心して。まーくんを一生幸せにするからね」
「貴様にとっての利益ばかりではないか!」
「えーお婿って結構譲歩だと思うけどな」
オレ家事担当したっていいよ、料理うまいし…などと続ける勇者を尻目に、魔王はふと先代の勇者を思い出していた。
その時代の彼は人間に化け、正体を隠して勇者の仲間に入っていた。
内側から勇者を滅ぼそうなどという大層な理由では無い、ただほんの気まぐれに人間というものがどういうものかを
体験してみるのもいい暇つぶしになるのではないかと思ったのだ。
だが結果はひどいものだった。始めのうちこそ魔王として冷めた目で勇者たち一行と過ごしていた魔王だったが
いつしか人間達の影響を受け、あろうことか人間達にほだされそうになっていった。
このまま勇者一行と行動を共にすれば、魔王としての己は無くなってしまう…そんな危機感から、魔王は勇者達を
手酷く裏切ると、魔王としての本来の役目に戻って行った。
だが魔王城で再び先代勇者と対峙した時、勇者の態度は魔王にとって意外なものだった。
魔王のことを仲間と呼び、魔族と人類の共存を説いてきたのだ。
『一緒に旅をした過程でわかったんだ、魔王も人間と何も変わらないんだよ』
そう言って伸ばしてきた手を、魔王は払いのけた。
「魔王」が人類を滅びに導き「勇者」がその魔王を倒す。その均衡を崩すことなど、簡単にはできはしないのだ。
『下らぬことを申すな、我ら魔族と貴様ら虫けらが同じなどと、よくもそんな事が言えたものだ』
しかし刃を重ね、傷を負いながらも勇者は諦めずに何度も同じ主張を繰り返した。
ついには魔王にとどめを刺す寸前にまでいっても、先代勇者は瞳を魔王への憎しみで染める事は無かった。
『僕はお前と一緒にいたかっただけなのに、なんでこうなっちゃったんだろう…』
早くとどめを刺せと促す魔王に、勇者は泣きそうな顔でそう呟くと、震える手で刃を突き立てた。
あの先代の勇者は今目の前にいる勇者と同じ瞳をしていた。
そういえば、この少年は勇者の血をひいていると言っていた。魔王が共存に聞く耳を持たなかったからと
今度はこんなからめ手でくるとは、全く人間というものはつくづくこちらの意表を突いてくれる。
魔王は何百年ぶりに込み上げてくる愉悦に喉を鳴らした。
「…いいだろう、貴様と添うてやらんこともない」
「やったー!じゃあ新婚旅行は何処に行こうか、式は盛大にやりたいな~」
「それは断る」
「えーー」
かくして幾度も気の遠くなるほども繰り返された争いに、多少不本意な形とはいえ初めての大きな変化が生まれた。
この先に何があるのかは、まだ誰も知らない。