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そら涙

1年ぶりの町は何も変わっていなかった。電車を降りてこじんまりとした駅に着くと
俺はまっすぐにあいつの元へと向かった。
空はオレンジ色に染まり、そろそろ日が沈もうという頃。田舎の小さな駅だけあって
行き交う人の姿もまばらだ。
そんな駅から歩いて10分程の墓地に、あいつは眠っている。
「去年ぶりだな」
墓石に水をかけて花を供えると、俺は奴に話しかけるようにそう声をかけた。
こうして毎年墓を訪れるようになって、もう5年になる。
「なあ」
一呼吸置いてから、俺は再び口を開いた。これも毎年のことだ。
「…俺はお前なんて嫌いだったよ」
こいつとはこの町で2年と3ヶ月一緒に暮らしたけれど、次第に嫉妬深くなり友人と遊びに
出かけただけで誰と何処へ行ってきたのか、俺に逐一報告させようとするこいつに段々と
嫌気がさしていったのはやむを得ないことだっただろう
暴力をふるわれたり、激しく責め立てたりされることこそ無かったけれど、俺の意思なんて
考えもせずに独占欲でガチガチの愛情で縛り付けてくるだけで、俺はもううんざりだった。

こいつが突然の事故で死んだ時、俺は少しも悲しくなかった。かといって解放された喜びを
覚えることも無く
ぽっかりとあいた空虚だけを感じる以外に何の感情も湧きあがらなかった。
ただ黙って涙を流すばかりの俺に、俺達の関係を知っていた友人たちは、余程深い悲しみに沈んで
いるのだろうと話していたけれど、その涙は何の感情も籠っていない偽りの悲しみだったことを
俺だけが知っていた。

ふわりと風が墓に供えた花を揺らす。
小さな花弁をいくつもつけるその花は、小ぶりながらも賑やかで明るい彩りをしている。
昔、こいつが好きだと言っていた花だ。
―…花もこうして固まって咲いていれば寂しくないのかな
いつだったか、何度目かの喧嘩の後。ベランダのプランターに植えられていた花を見て
こいつはそう呟いていた。
人一倍寂しがりやで自分勝手で、どこにでもあるような愛情では満足できなかった奴のことなんて
俺は嫌いだ。

だから時折り、俺を強く抱きしめていた腕がどうしても恋しくなってしまうのは、きっと寂しがり
なこいつが会いに来てくれと呼んでいるからなんだろう。
それに応えるように1年に1度、こいつの墓に花を供えに来てしまう。
「なあ、死んでから俺のこと縛り付けて、これで満足か?俺もう、お前と付き合ってた年数よりも長く
墓参りしてんだよ…毎年もうこれっきりって思ってんのに、なんで来ちまうんだよ…」
いくら責めても嘆いても、無機質な墓石は何の反応も無く、ただ夕日の光を受けて立っているばかりだ。
頬をつたう熱い涙を感じて、俺はシャツの袖でぐっとそれを拭った。
生前はうまくいかない2人だったのに、死んでなにも答える事が出来なくなった途端、こんなにも俺の心を
捕えて離さなくなるなんて。ただ口惜しい。

あの時流した涙がそら涙だったのかどうかは、本当のところは俺にもわからない。