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高校を卒業したら

「俺さ、大学は東京にしようかと思ってるんだ」

無事高校3年に進級して、いよいよ大学受験が身近になった春、4月。
放課後、図書館で苦手な数式と格闘していた俺の対面で、英語のテキストをぱらぱらと斜め読みしながら、あいつが言った。
なんか余裕って感じでムカツク。
「へぇ、俺と一緒だ」
とは言っても俺とあいつの偏差値は天と地、とまでは行かなくてもスカイツリーと地上、程度には差がある。
───勿論地上にいるのは俺の方だが。
だから目指す大学自体は違って当然だとしても、とりあえずその所在地自体は、東京で一致しているということだ。
俺にとって、先の言葉にそれ以上の意味はなかったのだけれど。
「そうか、一緒なんだ」
どこか嬉しそうにあいつはそう言って、相変わらず意味もなく繰り続けていたテキストをぱたりと閉じた。
「じゃあさ、大学受かったら」
「ん?」
「高校を卒業したら、東京で俺と一緒に暮さない?」

そんな風に言って、照れくさそうに笑って、ついでに返事もしていない俺に勝手にキスまでして、
「これ予約だから。ついでにキャンセル不可だから」
なんて頭はいいくせに、馬鹿みたいに嬉しそうにまた笑うから。
俺はすごく頑張ったんだ。それこそホントに死に物狂いに。
だってあいつは余裕で合格圏内だとしても、俺は相当頑張んないと、ちょっとマジにヤバい感じだったから。
あいつがキャンセル不可なんて、しょうもないこと言ったりするから、だから。
俺はものすごく頑張ったんだ。
それで季節は再びの春、3月。
志望大学の合格証書を手にした俺の隣に、あいつはいない。
頭はいいくせに、ホント馬鹿なんじゃねーの。
俺以外には誰にも見えない幻に姿を変えて、風に紛れて「合格おめでとう」なんて、そんなの誰が喜ぶんだ。
もしかして俺が泣いて喜ぶとでも思ってるのか?
悪いけど、俺は泣いたりしない、絶対に。

泣かない代わりに。
あいつの笑顔とか、低く囁く声とか、俺に触れる時に一瞬だけ躊躇する右手とか。
髪をかきあげる癖も、俺を振り返る仕草も、そういうの何もかも全部。
全部、絶対に忘れない。

高校を卒業しても。
あいつのいない、ひとりきりの遠い街でも。
初恋なんて、誰にとっても忘れられないものなんだからしょうがないだろ。
そう呟いたら幻のあいつはゆらりと揺れて、やっぱり馬鹿みたいに、嬉しそうに笑った。