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医師×リハビリ中の怪我人

売店の入り口ですれ違ったのは、外科病棟に入院してる高校生の男の子だ。
担当医の先輩が、無口で食が細くてリハビリにも上の空だとぼやいていた。
しかしなかなか美形で、女性陣にはストイックでかわいいと評判、その彼だが、
…一瞬でよくわからなかったけど、今泣いてなかったか?
おれはレジ台に豆乳を置いて、おばさんに聞いてみた。
「今出てった患者さん、どうかしたの?」
「あら先生。いえ、それがねぇ…」

次の日、おれは朝食の時間帯に彼の病室を訪ねた。
「あら、森下先生…」
「やぁ、ちょっと彼に用があって。いいかな?」
「そうなんですか?…じゃあ菊川君、私またあとで来るけど、少しでもいいから食べてね。」
そう言って看護士が病室をあとにすると、菊川君は無言でおれを見た。
机の上には、手の付けられていない病院食。
思わず口元に笑みがうかんだおれを、訝しげに見る菊川君。
「ん?なんだ、その目は。いいもの持って来てやったのになぁ…」
持って来たタッパーを見せると、あからさまに興味を示す菊川君。
「なんだか知りたいか~?」
勢い良く首を縦に振る菊川君。面白いなこの子。
「ふっふっふ…おれの実家から送って来た自家製梅干し。」
その瞬間、目を輝かせておれの白衣に飛びついて来た菊川君は、昔飼ってた柴犬を彷彿とさせた。

「いやぁ、菊川君すっかりキャラ変わっちゃいましたよね~」
「まったく、誰よクールでつかみ所のない美少年とか言ってたの」
「それにしても森下先生、よくわかりましたねー菊川君の”梅干し”。」
「ああ、あの子がちょうど売店に探しに来てたときに居合わせたんだよ。…にしても、今時の高校生が、自家製の梅干しがないと食事ができないなんてなぁ。」
「あ!先生っ、森下先生ーっ」
廊下の向こう端で、思いっきり手を振っている菊川君。
あれ以来まさしく犬のようにおれに懐いているんだが…まあリハビリも順調らしいし。
「先生!うちの両親来週には日本に戻ってくるから、うちの梅干し持ってくるって。そしたら先生にも食べさせてあげるよ!」
「はいはい、わかったから…病院で大声出すな。」
まとわりついてくる犬っころの頭をなでながら、やっぱりおれの口元には笑みがうかんでしまうのだった。