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馬鹿×嫉妬深いクール

「まった小難しい本読んでんのか~」
成司は夏樹の手にしていた文庫本をひょいと取り上げると
無造作に放り投げた
「なにをするんだ」
いつもは無表情とさえいわれる、夏樹の目が苛立ったように細められた
幼馴染の落ち着きのなさは夏樹にとっては時々腹立だしくさえある。
こんな男にファンクラブなどと、うちの学校の女子たちはどうかしている。
今日も成司は、グラウンドでサッカーの部活の練習中に、女の子の黄色い声援を
浴びていた。それを、放課後の教室で、夏樹はぼんやりと眺めていたのだった
「まったく、たまには外に出て、太陽の光でもあびろっつーの!
いくら親父さんの後つぐために医大受験するっていってもなぁ、
オトコは体鍛えてナンボなんだぜ!」
成司は夏樹が完全無視を決め込んで文庫本を拾い上げるのをみて
舌打ちをすると、しなやかな長身を傾けどっとベッドへ寝転んだ。
まったく、ここは俺の部屋だろ。本当に成司という男は遠慮もなにもあったもんじゃない。
こいつは脳みそまで筋肉でできているのか。
悪態をこらえると、夏樹は文庫本に再度目を通した。
「まったく、なんでこんななまっちろいやつなんかのこと、玲子ちゃんは・・・」
ぎろりと夏樹の目が成司を冷たく見やる。
玲子とは、成司がほのかに恋心を抱いていた同じクラスの女子だった。
玲子は、夏樹に告白し、そして、ふられたのだ。
「それにしても夏樹って浮いたうわさひとつねーな。女にキョーミねーんじゃねーかって
うわささえ立ってるぜ~」
ーーーこの男はデリカシーのかけらもないのか。
苛立ちが頂点に達した夏樹は、適当なことを言ってやろうと口を開く。
「あいにく女には興味ないんでね。お前みたいな女好きとは違うんだ」
成司は目を丸くした。
「なんだよそれ、お前ってば男好きなのか?」
真にうけるなよ、うざったい。夏樹は堪忍袋の緒が音を立てて切れたかのように感じた。
「いいからもう帰れ。もう夜中だろ。いくら家が隣同士だからといって
俺の部屋に転がり込むのにも限度がある。早く出て行け」
冷たい表情で言い放つ夏樹。それはまるで端正な彫刻のようだった。
そんな彼の無表情を変えてみたくて成司はいつもちょっかいを出してしまうのだった。
成司はにやりと口の端だけゆがめて笑った。
「ああ、そうですか。わかったよ。」
なんだかタチの悪い笑い方だな、と夏樹が思った瞬間。
まるで肉食獣のような鋭敏な動きで、成司の手が夏樹の手首をつかんだ。
わけのわからぬまま、共にベッドへと倒れこむ。
その刹那
成司の唇が夏樹の唇を捕らえたのだった。
「!!!」
いったいなにが起こっているのだろう。息が苦しい。
それにしても成司は、とても慣れているみたいだな。
キスに。
その二文字を頭が理解した瞬間、夏樹は一気に頭に血が上るのを感じた
ばちん!
成司の右頬が音を立てた。夏樹が飛び起きた瞬間に殴ったのだ。
「いってーな なにすんだよおい!」
「それはこっちの台詞だろう!」
白い頬を珍しく高潮させて、洗い息を紡ぎながら夏樹が言う。
「・・・・へえ。人形じゃない顔みんの久しぶり・・」
!?いったいこの男は何を言いたいんだ?
夏樹がさらに混乱を極めたそのときだった。
「~~~~~~~♪」成司の尻ポケットの携帯が鳴った。
「もしもし、あ、なぎさちゃん!?今日これから?もうぜんぜんオッケーだぜっ!」
夏樹は急に取り残されて、呆然とした空気からいきなり現実に引き戻された。
「わりいわりい、ちょっと急用できちまった」
成司は傍らにあった上着を着ると、あわただしくドアのほうへ向かう。
夏樹はもう、何も言う言葉すら出なかった。この男はいったい、どういうつもりで。
成司はドアをあけると何かを思い出したようにふと振り返った。
「お前の唇って、薄いけどやわらけーのな」
「!!!!」
夏樹は枕を思い切り成司に投げつけた
「どこまで侮辱すれば気が済むんだ、さっさと出て行け!」
「わかったよ、雪の王子さま!」
ギャハハっとからかうように笑うと、成司は枕を投げ返し、去っていった。
「雪の王子さまか・・・」
それは、夏樹にひそかにあこがれ女子たちが影で着けたあだ名であった。
無表情の象徴であるかのようなそのあだ名は、気恥ずかしくもありながら
言い得て妙であった。
夏樹は唇に手をやる。なんだかとても熱い。まるでそこだけ火になったみたいだ。
そういえば、こんなに怒ったの、久しぶりだな・・・
いつからだろう。厳しい父親の期待に答えようと、笑うことすら無駄なことのように
思えたのは。ただただ、医大受験の勉強にはげむうちに、
幼いころには出来ていた笑顔すらわすれてしまっていた。
炎みたいに熱い成司のキス。それはまるで氷をも一瞬にして溶かすような・・・
成司のバイクの音が、外から聞こえる。彼はまた、今日も女の元へいくのだろう。
いつものことなのに、なぜだか急に胸がちくりとした。
わけのわからないその感覚を、夏樹は初めて知った。
この感情の正体は、いったい何なのだろう。
「まあ、いいか。」
明日になれば、またいつもと同じ日常が始まるはずだ。
ベッドにもぐりこむと、胎児のように体を丸め、夏樹はぎゅっと目を閉じるのだった。