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行ってくんなきゃわかんねーよ言ってくれよ×言わなくてもわかれよ馬鹿

前々から、自分の体がヤバいことになっている、とは感じていた。
体がだるく、微熱がずっと続いている。食欲も無く、のどや胃の粘膜が荒れ、吐き気が
常におさまらない。はじめは風邪だと思っていたが、鼻血がなかなか止まらないあたりで、
死んだ母親と同じ病気ではないか、と気づいた。
それでも、俺は馬鹿だから、もう少し市販の薬で様子を見てみよう、とか、この痛みは
昨日よりも良くなっている、とか、自分をだまして、その日を先延ばしにしていた。
お金がもったいない、という気持ちもあったが、それよりも大事な理由があった。
母親がこの病気にかかった時は、入院したが最後、病院から一歩も出られずに死んだのだ。
俺は、死ぬよりも、それが怖かった。

しかし、そんなやせ我慢も、長く続けることはできなかった。
アツシに、気づかれてしまったのだ。
中学生の時に、訳あって、兄夫婦の家から、叔父である俺の家に来たアツシ。
アツシは、すぐに俺を病院へ連れて行こうとした。泣きながら懇願してきた。
俺は、それを必死で拒否した。
自分の気持ちを言えたら、どんなに楽か分からないが、そんな恥ずかしいことを、
大の大人が言えるわけがない。「自分のことは分かる。俺のことは放っておいてくれ」
と、アツシの頼みを拒否した。
アツシは、怒鳴るように、俺に向かって言った。
「叔父さん、病気が怖いのかよ! 病名なんて、病院へ行ってくんなきゃわかんねーよ!
 言ってくれよ、行くって!」
俺は、アツシの顔を見ないように、首を横に振った。
「何でだよ! 理由を言ってくれよ! 言ってくんなきゃ、俺は…!」
「言わなくても、分かれよ、馬鹿」
俺は、涙で濡れたアツシの頬をぬぐった。
子供みたいな泣き顔して。もうすぐ大学も卒業だというのに、中学生の頃と変わらない、
馬鹿丸出しの顔だ。
アツシは、何を言っても、俺が考えを変えないと知ると、部屋に閉じこもってしまった。
俺は、痛み止めの薬を飲んで、胃の痛みをやりすごす。

「言わなくても、分かれ、馬鹿」
もう一度呟くと、自分がどうしようもない馬鹿であることを、身にしみて感じた。

アツシ。
最初は面倒くさい子供だと思っていた。しかし、今ではもう、甥というより、俺自身の
子供のような気がしている。それが、あと数ヶ月で、社会人になり、この家を出て行くのだ。
新しい世界に出て行くアツシに、入院する俺の世話なんて、させたくない。
何よりも、10年近く続いたアツシとの生活が、あと数ヶ月で終わるのだ。
出来る限り長い時間、一緒にいたい。
そして、アツシが家を出て行く日は、俺が送り出してやりたい。
人間嫌いで、両親とすら一緒に暮らせなかった俺が、唯一手にいれられた家族なのだ。
社会人になるアイツに、保護者として、伝えたい事がたくさんある。
病院のベッドの上では、それすらできないじゃないか。
俺には、それが怖い。

あと数ヶ月したら、別にベッドの上で一人死んでもいい。だからもう少しだけ。