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見た目怖面中身わんこ×見た目クール中身天然小悪魔

「電車の中でいちゃいちゃするのはどうかなぁ」とか。
「お姉さん、足開きすぎてスゴイ色のパンツが見えてるよ……」とか。
「もう日本はヤバイなぁ」とか。
「それにしても昨日の飲み会でくじいた足首、まだ痛むなぁ」とか。
そのくらいの事しか考えてなかったのに、目が合ったカップルは顔色を変えて席を立ち、隣の車両へと逃げて行った。
それに気付いた周囲の乗客も、自分の顔を見るなり同じように逃げるか、もしくはいきなり寝たフリを始めた。
こんな外見でもハタチ前。柴田は深く傷ついた。

電車が駅で停車すると、ノートパソコンを手にした氷室がせかせかと乗り込み、柴田の姿を認めるやその隣の空き席にどっかと腰を下ろした。
膝に乗せられたノートパソコンの画面には、文書作成ソフトがいっぱいに開いている。
柴田が朝の挨拶をする前に、氷室は「現代建築概論のレポートが終わっていない」と呟いた。
「それって今日の昼締め切りの? まずいんじゃないですか氷室さん、あの教授、一分でも遅れたら受け取らない上に即落第でしょ?」
「そう。一分一秒も無駄にできない。よって俺に話しかけるな」
言うや否や、細い指が十五、六本くらいあるんじゃないかと思えるようなスピードで氷室はキーボードを打ち始めた。

柴田は二学年上の先輩の横顔を見ながら考える。
このくらい「私は論理的な知性派なので暴力とは縁がありません」という顔をしていたら、きっとカップルは逃げたりしないだろう。
……いや、別の理由で逃げるかもしれない。
氷室はそうとう焦っているはずだが、その名残は眉間にできた薄い一本のしわだけだった。
電車が再び駅で止まった。
乗り込んで来た人々の中に、小柄な老婆がいるのを見た柴田は反射的に席を立とうとし、足が痛んで顔をしかめた。
他の人が立たないかと周囲を見回せば、何たることか、柴田のしかめた顔に怯えた乗客はうつむきあるいは寝たフリを続行し、誰も老婆に気付いていない。
「どうぞ」
柴田が途方に暮れるより早く、氷室が立ち上がった。
「え、ちょっと。氷室さん、オレ立ちます!」
「怪我人は座れ」
「でも立ったままじゃキーボード打てないでしょ」
「立つって誰が?」
氷室はそのまま、柴田の膝の上にすとんと腰を下ろした。

「足首が痛いだけなら膝は平気だよな。俺軽いしお前頑丈だし。あ、柴田。この先カーブが多くて揺れるから、ちょっと腰支えてて。……いやそうじゃなくてしっかり抱えろ、俺が落ちたらどうする」

大学の最寄り駅に着くまでの二十分間。
イイ位置に当たる尻の感触やら丸見えのうなじやら。
至福を「おあずけ」されている上に、下半身が反応してはいけないと必死な柴田は、
「誘ってんのか、あんた誘ってんのか!?」とか。
「神様ありがとうでもやめて!!」とか。
そんな事を考えていたのだが、周囲は黙々とキーを打つ眼鏡の美青年がいつ鬼の形相のチンピラに殺されるかと気が気でなく、車内は嫌な緊張に包まれていた。