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私×僕

「三島」
「何でしょうか、雅人様」
三島が柔らかく微笑みながら僕の方を振り返った。
その笑顔は10年前――僕の世話係になってから少しも変わらない。
「さっき長い事電話してたよね……誰なの?」
「あ…見てらっしゃったんですか? 私の大学時代の友人ですよ。
今度こちらへ転勤になるというので色々話をしていたんです」
それを聞いて思わず安堵する。顔がほころびそうになるのに気付き、
慌てて口を引き結んだ。
三島はそれに気付いたのか、からかうような口調で言う。
「あぁ、昨日の晩、雅人様がこっそりお出かけになった事をお父様
に告げ口されたとでも思ったんですか? そんな事はしませんよ」
「ち、違うよ!」

三島はどんな事にも答えてくれる。まるで家族のように、親が
幼子に語りきかせるように。しかし決して世話係の範疇を超えない
よう礼儀正しく。
僕はそれが嬉しくもあり、寂しくもあった。自分は『守るべき子供』
以上には思ってもらえないのかと。
彼に優しくされる度に僕の胸は痛んだ。
「その人とよっぽど仲が良かったんだね。話し方で分かったよ」
「え?」
「電話で三島が自分の事『俺』って言ってたから」
「そうですか?気付きませんでしたが。懐かしくて私もつい大学
時代の口調になったんでしょうね」
「羨ましいな…そういうの」
「雅人様?」

『俺』と『私』でどうしてこんなに距離が違うように感じてしま
うんだろう? 例えばもし三島が僕に対して「俺」と言ってくれ
たら、このもどかしい気持ちも晴れるんだろうか……

「雅人様ももうすぐ大学生じゃありませんか。心配なさらなくて
も沢山ご友人が出来ますよ」
三島の暖かい微笑みから目をそらし、僕はそっと息をついた。