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欠けたピース

「恋をしなさい」
先生はそうおっしゃった。それで僕の音楽は完璧になると。
だけどどうしたらいいかわからない。お世辞にも幸せとは言えなかった家庭環境のせいにする気はないが、どうすれば人を愛せるのか、僕にはまったくわからないのだ。


「……それをどうして俺に相談する?」
「だって僕が知っている限り、一番恋愛沙汰が多いのは先輩だから」
「それは否定しない」
「先週のOB会に出てこなかったのも、元カノに刺されたからだって噂が」
「誰だそんな噂流してんのは!?」
「山田です」
「……あの野郎……上野のゲイバーに売り飛ばしてやる」
リビングの床でビールを飲みながら、先輩はぶつくさ言っている。
酔いも手伝って、僕は常々気になっていた事を先輩にぶつけてみた。
「先輩、すぐに別れるなら、どうしてそんなに恋人を作るんですか?」
尻ポケットからくしゃくしゃになった煙草を取り出そうとした手を一瞬止めて、先輩は困ったように、口の左端だけをきゅっと上げて苦く微笑んだ。
「寂しいんだよ」
先輩が煙草をくわえ、火をつけ、煙を吐き出すまでの間で、僕のアルコールでふにゃふにゃになった脳みそは答えを出した。
先輩も欠けているのだ。ただ、僕とは行動のベクトルが正反対なだけで。
「おい」
「はい」
「俺と付き合ってみるか?」
「すぐ捨てられるのに?」
前にも酒の席でこんな会話をした気がする。でもあの時は先輩の顔は近付いてこなかったし、その顔もこんな真面目じゃなかったはずだ。
あれっと思った時には、唇に柔らかくて気持ちいいものが当たっていた。


パチンという音がどこかでした。たぶん、欠けていたものが僕の空洞にはまったんだと思う。