50歳の年の差。
件名:もうすぐ帰れます
本文:
お久しぶり。
予定通りの航行なら、星間往復シャトルの試運機は後少しでそちらに到着できる筈だ。
地面に足をつけるのは何年ぶりだろう?
しばらくは、久々の重力に縛られる生活に戸惑ってしまいそうだな。
それにしても、お前がジジイになってるだなんて、俺は未だに実感がわかないよ。
だって、俺はまだぴっちぴちの30代だぜ? 俺より2つも年下だった筈のお前がジジイって。
学院で耳が痛くなるほど理論は勉強したはずなのに、いざ自分がその立場になるとどうしても信じられない。
いや、もちろん理解はしてるんだけど、お前写真とか音声一切送ってくれないしさ。
つーか、最近はメールすらろくによこさねーだろ。 筆不精なのは知ってるけど、返信くらいしろよ。
地球に戻ったら、一番にお前に会いたい。
お前を見たい。声が聞きたい。抱きしめたい。
とにかく会えるのを楽しみにしてる。
だから、待っててくれ。
* * *
――もうすぐ、キミの搭乗しているシャトルが地球へ戻ってくる。
それが嬉しく、けれど何より恐ろしい。
キミにこんな姿を見せたくない。
こんな、変わり果てた姿を。
送られてきたメールの返事を何とか打ちたくて、思うように動かない腕を必死に振り上げる。
キーボードの上を這いずる指先は小枝のように細く枯れて、カサカサに干乾び罅割れていた。