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恥ずかしがるオッサン

寒くて寒くて、風を少しでも避けるために、コートのフカフカした襟に
顔をうずめながら歩いていたら、目の前を歩く男に思いっきりぶつかった。
何で立ちどまっとんねん。アホか。
アイツは、俺の心の声が聞こえたのか、「あー、ごめん」と、ぶつかられた方にも
関わらず謝った。何謝ってんねん。ええ子ぶりやがって。
「なぁなぁ、見てみ? 雪降りそうやで。朝には積もってるかな」
しかし、そんな小さなことは全く気にしていないのか、ニッコリ笑って、
アイツは空を指差している。見上げると、真っ黒な空には、ぶ厚い雲がかかっていた。
確かに、ちょっと歩いただけで、こんなに寒いのだし、雪が降ってもおかしくない。
「俺、雨が降り出す瞬間は見たことあるんやけど、雪が降り出す瞬間って
 見たことないからなー。見たいなー。なぁ、そう思わへん?」
アイツは、無邪気に革ジャンのポケットから指を出して、空に向かって広げた。
どこの少女漫画の男やねん、コイツ。何や、そのポーズ。宇宙との交信か。
腹がたったので、毒づこうと思って口を開いたが、そんな変なポーズも妙に様に
なっているアイツに気勢をそがれて、違う言葉を口にした。
「…俺、おっさんやから、そんな気持ち分からへんわ。でも…見れたらええんちゃう?」
ため息に似た息を吐いたら、コートの襟ではねかえって、メガネが曇った。
こんなセリフですら様にならないのか、俺は。ホンマ腹たつ。
でもアイツは、嬉しそうにニヤーッと笑って、俺の隣に立った。
「二人で見れたらええなー」
そして、俺の左腕にペターッとくっついて、左手は、自分の革ジャンの左のポケットに。
右手は、俺のコートのポケットにつっこんだ。
「バ…ッ! お前、何すんねん! 変に思われるやろっ! のけろ!」
「大丈夫やって。こんな寒い夜に、誰も見てへんし。コンビニまでやん。俺の革ジャン、
 ポケット寒いねん。ほら、上見んと、雪降る瞬間見れへんで」
俺の抵抗むなしく、アイツの右手が、俺のコートにおさまる。
俺は、手袋を持っていないので、コートに手をつっこまざるをえない。
すると、自然とアイツの右手と俺の左手が触れ合うわけで。
「あったかいなぁ。一番最初の雪、溶かしてしまうかもしれへんな」
だから、お前は、どこの少女漫画の主人公やねん。
しかしいつのまにか、コートのポケットの中で、指はしっかりと絡まっていたりする。
「…寒いから、おでんと酒買って、早よ家帰るで」
そんなこと言いつつ、目線は空へ。意識は右手へ。顔は真っ赤に。
…って、アホか、俺は。恥ずかしっ。