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敬語眼鏡×アホの子

「あれ、イインチョ何よ? 俺に何か用~?」
 痛んだ茶髪をカラーゴムで括ったアホの子が、菓子パンを頬張りながら椅子に座ったまま敬語眼鏡を振り仰ぐ。
 馬鹿な子ほど可愛いというやつで、案外と皆に可愛がられていたりする彼だったが、密かに勝てない相手がいた。
 それが、敬語眼鏡だったりする。何故ならマイペース、そして穏やかに強引。上手い事転がされて、いつの間に
か思うように動かされている事が多かった。
 そして、今日も。
「アンケート、提出していないの君だけですよ。……って、何て顔してるんですか」
 呆れ顔で眼鏡の蔓を押し上げながら、膝に落ちたパンくずを払ってやる敬語眼鏡。
「あんがと~。イインチョほんとに優しいねぇ」
「おや、有難うございます。優しいだけとは限りませんけどね。で、アンケートは?」
 口元を指先で拭ってやりながら、もう一度聞き返す敬語眼鏡。
「……どこ、やったかな?」
 首を傾げるアホの子に、新しいアンケート用紙を渡す。
「出来るまで帰れませんからね」
「うわ、ヤブヘビ」
「さあ、さっさと終わらせましょう」
 そう言って、敬語眼鏡は微笑んだ。

 放課後。
「何で手伝ってくんないの?」
 ぶーたれつつも必死にアンケートを埋めているアホの子。しかし、真面目な内容の為どうにもやる気が出ない。
「それではアンケートにはなりません」
「イインチョのけーちけーち」
 しまいにはすみっこに落書きを始める。しかも言葉と同様に幼稚園児並みのセンス。
 流石の敬語眼鏡もちょっぴり怒る。
「……そういう事を言うと、もうお昼のおかずを分けませんよ?」
「えー、それはやだ。イインチョの弁当美味いもん」
「それは有難うございます。明日はだし巻き玉子を入れましょう」
 明日の弁当の中身を考えながら、機嫌よくアンケートを埋めるアホの子。唐突に疑問が。
「わー、楽しみーって……ひょっとしてイインチョ作ってんの?」
「ええ、そうですよ?」
 敬語眼鏡、結構得意げ。
「うわ、意外ー。でもいいお婿さんになるんじゃねー?」
 汚い字ながらも、大分埋まってきたアンケート用紙。つるっと滑らせた言葉が彼の転機となるとは、
流石にアホの子も思わなかった。
「……そうですね。君みたいな何も出来ない人にはちょっと頼りになる婿になれると思いますよ」
「でーきた。……って、今何か変な事言った?」
「何ですか? プロポーズじゃなかったんですか。それは残念」
 さらっと流しているようできっちり話題を引っ張っている策士、アンケート用紙を引き取り、
椅子から立ち上がる。
「……は?」
 ぷろぽぉずぅ? と、妙なイントネーションで繰り返すアホの子。目が泳いでいる。
「提出してきます。玄関口で待っていて貰えますか? 一緒に帰りましょう」
「う……う~ん?」
「どうしました?」
「あのさ、へんな事聞くけど、イインチョひょっとして……」
「はい、何でしょう」
「結婚願望強い人?」
 いやそこじゃないでしょう、と突っ込みつつ、敬語眼鏡はきちんと分かりやすくアホの子に伝えて
あげた。
「あなたに対する独占欲ならば強いですけれど、まだ結婚の予定はありませんよ? プロポーズを
受けて下さるならば、明日にでも海外で結婚式もやぶさかでは無いですが」
「は、はあー!?」
 すっきりした顔で教室を出て行く敬語眼鏡に、アホの子はただ声を上げる事しか出来ませんでした
とさ。