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犬型獣人

俺が二十歳を過ぎた頃、義父が死んだ。
施設から買い取った俺を押し倒し、好きなだけ弄んだ義父。
笑顔がなくなり、表情は固まり、感情は消え失せ、最後には声も奪われた。俺から全てを奪った義父は金欲にまみれた親戚たちに見送られて地獄へ旅立った。
金目のものは、全て親戚たちが平らげ、俺に残されたのは、片田舎の小さなお寺兼別荘だった。親父の祖父が親父の精神修行のために、この寺を建築したと聞いた時は流石に呆れた。
農業、簡単な修理、炊事等、生活に必要な文献を買いあさり、人目を避けて自給自足の生活を始めた。

寺に住み始めた三年目の秋、野生の柿を発酵させた酒が良い出来になった。
ほんの気まぐれで、寺の前に置かれているお稲荷さんの石像の足下に、赤カブの煮物と飲み口が少し欠けた湯呑みに柿酒を注いで置いた。

その日の晩、柿酒をあおり、胡座をかく。落ち葉の落ちる音が心地よい。
ふと、蝋燭に照らされ、キラキラと光るものが風に乗ってきた。後ろを振り向く。
。金色の毛並みがまぶしい。
人のように二足歩行したキツネだ。俺の横で胡座をかくと、
「ん」
ずいと突き出された湯呑み。朝方お稲荷さんに捧げた湯呑みだ。中を見ると空っぽで、息が酒臭い。
お稲荷さんを前に自然と声が溢れた。
「…飲……む…か?」
石臼で引いたような鈍い、だが自分の声だ。
差し出す湯呑み。早く注げと言っていた。
柿酒を注ぐ音に、ピクピクと動く耳。
注ぎ終わると、じぃ~と湯呑みを見つめ、鼻を近づける。尻尾が一瞬ピンと張ると一気に柿酒をあおった。
「…ふぅ…」
満足そうに牙の間からため息をつく。
「ん」
また催促された。尻尾はパタパタと待ち切れない様子だ。
頬の強ばりが溶ける。俺を見てお稲荷さんもうっすらとう笑。
お互いの笑顔を見つめつつ、俺は柿酒を注ぎ込んだ。