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何かに追われてる青年×売りで身を立ててた元男娼

ハァハァと、俺の荒い呼吸だけが、部屋に響いていた。
床に転がったまま、俺はぼんやりとベッドの上のアイツを見た。
今朝見た時の姿のまま、アイツはそこに座っている。
俺は、ニヤニヤと口元がゆるむのが分かった。
「…笑うなよ、こんな状況で。気持ち悪い」
ベッドの上のアイツが、憮然とした顔でそう呟く。
俺は、荒い息をおさえながら、大きく深呼吸をした。一回。二回。
「こんな状況って、好きなヤツと二人っきりの状況で、何でつまらない顔
 しなきゃいけなんだよ」
一息でそう言い切ると、また荒い呼吸を繰り返す。
さっきのヤツらとの追いかけっこのせいで、心臓が早鐘のように鳴っていた。

麻薬の取引を情報屋に流したのは、俺。
それで警察にとりいって、組から抜け出そうとしたのも、俺。
でも警察が動き出すと同時に、組が動き出すとは思わなかった。
俺が情報流したって、誰からバレたかを考えると…やっぱり、警察の内部に
組に通じてるヤツがいるんだろう。つくづく、この世界は狂ってる。
そういえば、最後に情報屋に会った時に、麻薬ルートは壊滅したけれど、
組はつぶれていない、と言われたっけ。

 あぁ、俺にどうしろって言うんだ。逃げるしかないのか。
 俺は、裏切りというヤバい橋を渡って、正しいことをやったはずなのに、
 神様は何も返してくれないのか。

「なぁ、アンタ、警察に保護求めた方がいいんじゃないのか?」
いつのまにか、アイツが俺の横に来ていた。
いつも無表情な顔に、少し心配そうな表情が浮かんでいる。
「…警察なんていったら、俺がつかまって、お前一人になっちまうだろ」
出会ってから半年。お前がそんな顔を俺に見せてくれるようになっている。
それが、どれだけ嬉しいか、何て言えば分かってもらえるだろう。
そして、警察なんて行っても、組の仲間にやられるだけだ、と、どう言えば分かって
もらえるだろう。
「でも、今のままだと…」
アイツが口ごもった。
お互い、分かっているのだ。今の時間が、長くないことを。

「俺、今幸せだ…。街中で、お前を見つけて、愛して、こうして一緒に逃げてくれる
 仲にまでなって、思い残すことなんてないよ…」
俺は、腕をゆっくりと動かして、アイツの頬に触れた。
「バカ! 逃げ切るんだろ、一緒に! じゃないと俺は、また…前の仕事に戻るからな」
「それは、困るな…。お前のこと、他のヤツらに触れさせたくないし」
俺は、もう少し体を動かして、アイツの膝に頭をのせた。
「お前、本当にバカだよ…」
暖かい。あぁ、神様。俺の頬にふれている、このやわらかい太ももも、髪にパタパタと
流れ落ちる涙も、どうか、いつまでも俺だけのものでありますように。

「明日、どこいこっかな」
「どこって…」
「車借りて、遠くまで行こうか。俺、朝一番でレンタカー借りるよ。だから、お前、
 用意しとけよ」
「…分かった」



明日、今生の別れが来るかもしれない。そんなこと、どうでもよかった。
お前が、俺だけのものになってくれたこと。それがどれだけ幸せかを、今は考えていたい。