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深夜営業

時間は日付が変わる少し前。深夜のコンビニのレジが俺の仕事。
「いらっしゃいませー」
ドアを入って右手に歩いて行く。ドリンクーコーナーでブラックのコーヒー、菓子コーナーでチロルチョコをひとつ。
そのまままっすぐレジへ。
「あと、こしあんのあんまんひとつ」
…と、あんまん。いつも通り。
「245円になります」
「ああ丁度…あ」
「…はい?」
「いえ、やっぱり足りなかったです」
レジに置かれたのは、100円玉二枚に50円玉一枚
こっそり表情を盗み見ると、俯いた顔は少し不満そうだった。
缶コーヒーをポケットに、チロルチョコを鞄に。
あんまんを片手にドアから出ていく背中を目で追いかける。
ドア横にあるゴミ箱の横に立って、店内に背中を向けて。
食べ終わったあんまんのゴミをゴミ箱に捨てたあの人は、缶コーヒーを飲みながら帰ってく。
いつも通り。
「…今日はちょっと会話しちまった」
毎日同じパターンのこの人が印象に残り出したのは何時からだっただろうか。
最初の頃は、甘いものが好きなんだろうかと思っただけだったのに、何でだろう。気になって仕方ない。


「すんませーん。この中の肉まん全部出して」
「え、あ。あの、あんまんもですか?」
「うん、あんまんもちょーだい」
「は…はい!有難うございます」
時間は11時を少し回った頃。集団でやってきた金髪のにーちゃん達が肉まんを買い占めていった。
「ありがとうございましたー」
時計の針は11時を少し回った頃。この時間に肉まんを作る事はあんまりしない。
「…まあ、売れなかったら俺が買うし」
スチームマシーンにあんまんをひとつ入れて、時計と睨めっこ。
あの人が来るまでに蒸しあがってくれ。

「…あと、こしあんのあんまんひとつ」
「っ…す、すいません…まだ蒸しあがって無くて…」
時間は日付が変わる少し前。ギリギリ間に合わなかった。
いつものように缶コーヒーとチロルチョコをレジに置いたいつもの人が、俺の言葉に少しだけ眉を寄せた。
「…そっか、じゃあこれだけ…」
「あの!あと5分くらいで蒸し上がるんです。だから良かったら…」
何を言ってるんだ俺。ほら、いつもの人だってびっくりしてる。
「…あ、じゃあ、待ちます」
レジの前から斜め横に一歩ずれる。え?もしかしてここで待っちゃうの?
どうしよう。そんな所に居られたら、俺もレジから動けない。

ちらりと、目線を移動させる。
カタカタと携帯を弄る指が長くてきれい。少し伏せた眼が、切れ長でかっこいい。
「…もしかして」
「はい?!」
「俺の事、覚えられてる?」
「え、いや、その…すいません」
「……別に。いいけど」
「あの…いつも同じ物を買われていて、印象に残ってしまって」
「…これ、俺用に作ってくれた?」
スチームマシーンのあんまんを指さして、じっと真っ黒な目がまっすぐに見つめる。
「な、かったら…がっかりされるかと…思って…すいません。なんか押し売りみたいになって」
「いや、嬉しかった」
「そうですか」
よかった。
「それで、もしよかったら」
「はい」
「これからも、一個残しといてくれたら、嬉しい…です」
「はい!」

時間は日付が変わった直後。深夜のコンビニであんまん一つリザーブする仕事が増えた。