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籠の鳥

「よくいらっしゃいますねえ」
苦笑いをしながら彼が紅茶を持ってくる。
盆の上には二つのカップと砂糖の瓶と、俺の手みやげの小さいケーキが二つ。
「こんなに『息抜き』ばかりされていては、おしごと進まないでしょう」
ふふ、と笑う。カップと砂糖瓶とケーキの皿を俺の前と自分のソファの前に置き、ぽふんとそのソファに彼は座った。
上等なソファ。ソファだけでなくこの家、部屋の中にある調度品はみな一級で品がよくどことなく古びている。
「いいえ、進んでおりますよ。出来上がったらまずあなたにお見せします」
「はは。先生を抜かして僕ですか」
彼の柔らかい質の髪が午後の光で透けるように光っている。
「それは、怒られてしまうな。先生に」
彼は俺と目を合わせないように、けれど俺の方を見ながら言った。
彼は上等な、仕立てのよい、地味なシャツを着ている。
地味だけれど値のはる、おそらく彼には、言ってはいけないことだけども分不相応な。
「高木さん」
目は合わせないようにしたまま、彼がやわらかい、賢さがそのまま音に出た声で俺をよんだ。
「高木さん、あなたは先生のいない時にこの家にやってきますね」
その声に嫌な予感がして俺は顔を庭に向けた。
ガラス戸の向こうは広く、濃い緑の庭が広がっている。都心とは思えない。
「高木さん。あなたは先生のお弟子で将来が有望な方だ。
もう、僕しかいない日に尋ねてくるのはよした方がいい」
彼の声は優しく柔らかだった。