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カラオケ

「つぅき~ぃの、ひーかーりにぃ、み~ちびかーれぇ」
いい年した男がアニソンを、それもム○ンライ○伝説を熱唱ってどうなんだ。
とてもいい笑顔で歌いきった彼に、僕はため息を押し殺しておざなりに拍手を送った。
好きでもないカラオケに来るのは、彼が誘うからだ。
「だぁって、お前、すっげーいい声してんだもん」と、彼は毎回のように言う。
歌うのはまぁ、嫌いではないが、人前で披露するのは苦手だ。
それでも誘いを断らないのは、お前だからなんだぞ。解ってるのか?
「うおーすっきりしたぁ。次お前な、これ入れたから」
マイクを離さない奴、というのは聞いたことあるが、彼はいつもリモコンを持ちっぱなしだ。
といっても、こちらに手渡されたところで、入れるべき曲など思い浮かびもしないのだが。
そんなわけで、必然的に彼の選んだ曲を歌うことになる。
「またビートノレズか?」
彼は大抵、洋楽を僕に歌わせようとする。
知らないわけではないが、歌いなれないせいでしょっちゅうつっかえる。
たどたどしい、点数も低い歌い方だというのに、それでも彼はうれしそうに聞き惚れてくれる。
だから僕も文句は言えない。最近など、CDを購入して歌詞を予習したりもしている。
末期的だ。
「お、始まった。ほら」
僕は差し出されたマイクを掴み、イントロの流れ出した画面を睨みつけた。
歌い終わると、軽く息があがっていた。
「やーもうホント、お前の声は惚れ惚れするよなぁ」
なかば放心したように彼は僕を見上げる。そーですかそーですか。所詮声だけなんだよな、くそっ。
「いつまでも聞いていたいよ」
お前がそう言うなら、喉がつぶれるまで歌ってもいいよ。
それぐらい惚れてるんだけどなぁ。気づいてくれよ。
「そりゃどうも。で、次は?」
「……あのさ」
「ん?」
次の予約は入っていない。画面は最近のヒット曲を騒がしく紹介している。
「あのさ、その、お前さ、」
「何だよ」
「…………俺の、専属歌手に、ならねぇ?」
何言ってんだこいつ。今だってお前にしか歌ってやってないだろうが。
「今も似たようなもんだろ」
「そうじゃなくて」
ふと見やれば、彼の顔は暗い室内でもはっきりわかるほど真っ赤で。
つられたように、俺の顔も熱くなって。
「解れよ、ばか」
もしかして、もしかすると、鈍かったのは僕のほう?