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こんな筈じゃ無かったのに

2年ぶりにあいつとすれ違ったのは雨の日の夕暮れだった。
背の高い見知らぬ男と傘をさして寄り添い歩くその様子がとても幸せそうだったから
あいつの方はおそらく俺には気付いていなかっただろう
そのまま角を曲がって行く2人の後ろ姿を見つめながら、そうであって欲しいと俺は痛切に願った。

2年前の中学時代、俺は大切な友人を傷つけた。
「君のことが好きなんだ」
オドオドしながらも、はっきりと告げるその声
気の弱いあいつにとってこの告白がどれほどの勇気を振り絞っているのかが
空気を通して痛いほどに伝わってきていた。
夏も終わろうという季節
蝉の声が途切れることなく空に溶けていく
温い空気と頬に伝った汗の雫の冷たい感触が妙に生々しく今も記憶に残っている。
「笑えない冗談はよせよ」
俺の口から出たのはひどい拒絶の言葉だった。
気持ち悪い、吐き捨てるようにそう続けた俺はそう言いながらもあいつの目を
見ることができなかった。
深く傷ついたであろうあいつの表情を見ることがひどく怖かったのだ。
子どもじみた勝手な理由だった、傷つけたのは他でもない俺自身の心無い言葉なのに
そのまま何も言わない俺の様子に耐えきれなかったのだろう
「変なこと言って、ごめん」
絞り出すような声と共に背を向けて駆け出して行ったあいつは、次の日から学校で会っても
俺を避けるようになっていた。
臆病で大人しい性質のあいつにはそれ以外に自分を守る術がなかったのだろう
俺も気まずさが先だって謝ることも出来ず、あいつに話しかけることすらできなくなっていた。
そんな泥沼の日々が続き、俺達の仲は修復されることの無いまま卒業の日を迎えた。
進学した高校が別々だったこともあり、俺とあいつの縁はそれっきり途切れてしまった。
それから高校で彼女を作ったりもしたけど、どうしても本気になれずに別れてしまった。
友人もたくさんできたけど、あいつ以上に思える友人はいなかった。
友人達と騒ぎながらも、ふと寂しくなると思い出すのはあいつのことばかりだ。
俺があんな態度をとらなかれば今もあいつと付き合いが続いていたのだろうか?

そんな折だった、あいつが俺とすれ違ったのは
こんな筈じゃ無かった
お前とはもっとずっと一緒にいたかったんだ。

――俺もお前が好きだよ

本当のことを言っていたら、今お前の隣にいるのは俺だったんだろうか

お前と両想いになれたらいいと、ずっと思っていたのに
お前と恋人同士になれたら、いろんなところに遊びに行って朝まで一緒に過ごしたい
そう夢想したのも一度や二度ではなかったはずなのに、俺はそれを現実にするだけの勇気がなかったのだ。
いざ告白を受けてみれば、口から出たのは拒絶の言葉だった。
何であんなことを言ってしまったんだろう
2人の関係が決定的に変わってしまうことへの恐れだったのか
同性同士という壁を乗り越えていく自信が無かったのか
今となっては分からない
――臆病だったのはお前じゃなくて俺だったんだ。

こんな筈じゃ無かったのに

そうして俺は、雨に打たれるのも構わずに今はもう誰もいない街角を見つめ続けた。