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貴方が優しいから僕は寂しい

あの人はいつもめちゃくちゃ優しい。
俺だけに、じゃなくて、誰にでもみんなに。
でもそれってどう考えても長所だし、「俺だけに優しくしてくれなきゃやだ」とか言うのはサムすぎるし、第一俺あいつにそんなこと言える立場にいないし。

なんてったって先生と生徒ですからね。
担任の生徒ですらない俺のことなんか、そりゃ優しくあしらっちゃいますよね。
わかるよわかるよー、うん。……うん。

「先生」

小さく深呼吸してからガラリと社会科資料室のドアを開ける。
中を覗き込むと、先生が机についていた。
チラっともこっちを見てくれないのは、来訪者がどうせ今回も俺であることなんかお見通しだからだ。
さらに言うなら、そんな俺に全然まったく興味がないからだ。

「いますかー?」
「ハイハイいませんよ」
「いやいやいや」
「いやいやいやいや」

先生が本気でちょっとわずらわしそうなことには気づかないふりをして資料室に足を踏み入れる。
気づかないふり。それだけでいい。そうするだけで、先生は俺にもう何も言わないのだ。
パイプ椅子を引きずってきて同じ机に肘をつく。先生はぴくりとも動じない。

「なにしてんの? 俺手伝ってあげるよ」
「授業で使うプリント作ってる。タカギシがもっと賢かったら手伝ってもらったけど」
「はっはっは!」
「笑いごとじゃないからね」
「はっはっはっは!」
「ほんとにね」
「……はい。すんません」

どうせ世界史のテストいっつも10点台ですよ。
好きな人から教わって成績急上昇! なんてドラマチックな奇跡は起こらないし、いくら好きな人のためでも自分の壊滅的な暗記力に打ち

勝てるほどのハイパー努力家でもございませんよ。

夕日がとろりと資料室に差し込んでくる。放課後に特別棟で好きな人とふたりきり。
言うまでもなく絶好のシチュエーション。おいしいったらない。
もう、しちゃおっかな。告白。
どう転んでも報われないだろうし、絶対後からどうしようもなく後悔するだろうけど。

「せんせ」
「んー?」
「あのさ、先生、俺さ……俺ね。俺先生のことさ」

先生が初めて俺の顔を見た。ドキリと心臓が跳ねる。
好きが溢れて、胸がぎゅーっと締めつけられる。

「タカギシ」
「……はい」
「プリント、もうできたから、一旦職員室に寄ってから帰るよ。ここも閉めちゃいたいんだけど」
「……あ、うん」
「よし」

……話、逸らされた。もしかして。もしかしなくても。
黙々と帰り仕度を進める姿をじっと見つめていると、間もなくして先生が立ち上がる。
「いいかな」と問われて、俺も「うん」と立ち上がった。
正直言って泣きそうだった。多分すごく情けない顔をしていたんだろう。
先生がふっとため息をついて、そして、至極やわらかい声で言った。

「またいつでも来てくれていいから。馬鹿な子ほど可愛いって言葉もあるように、センセイ、タカギシのこと結構気に入ってるよ」

ぽんぽんと頭を撫でられる。
悲しくて、けれど同時に嬉しかった。そんな自分がひどく寂しかった。