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一夜だけ

『真夏に一夜だけ咲くサボテンの花があるんだけど、うちに見に来ない?』

そういわれて、そいつの家で食われて男に目覚めたのが三年前。
結局、そのサボテンはその為だけに購入されたもので、
そいつにとっては俺を食えたら用なしになっていた。
花に魅入られた俺は、ゴミ箱に捨てられていたサボテンが自分のように思えて、
不憫になったのか、拾って家にもって帰ってきた。
決していい思い出ではないので、ろくに世話もしなかったけれど、さすが砂漠の植物で、
今年もちゃんと蕾をつけた。

「月下美人?」
携帯の待ち受けにしていたサボテンの蕾をみていたら、
隣の席の男が声をかけてきた。ここは相手がいない同性愛者が集まるバーで、
男がほしくなった時に来ては、俺は適当な相手を持ち帰り、
一夜だけの関係を持つのが習慣になっていた。
遊ばれてヤケになったことがきっかけだったけど、逆にわずらわしいこともなくて、
気楽でいいと思ってた。
「似てるけど、これは南米のサボテンの一種だって聞いた。もらいものだから詳しくはしらない。
知ってるのは一年に一度、夜に花を咲かせるってこと」
「へえ」
「白い花が咲くんだ。白なら夜に映えるだろ。虫がすぐに来るからさ」
「ああ、なるほどねえ」
「花が虫を誘うんだよね」
さびしそうにバーで飲んでる俺みたいにね。
「うちにあるのも、もうすぐ咲きそうなんだ」
「本当に? いつ?」
「今夜」
「え? 本当に?」
「見に来る?」
「いいの?」
「いいよ」
ああ、本当にいい口実になるんだな。そんなことを思いながら、俺はそいつを部屋に呼んだ。
部屋に通すとそいつはすぐに花に飛びついた。
「うわ、本当に咲いてる!」
「全開になるのは十二時くらいかな。終電ないだろ。泊まっていって」
「本当にいいの? 悪いな、ありがとう」
「いや、別に」
何言ってんだ、お前だってそれが目当てなくせにと心の中でつぶやいた。
いつからだろう。何をしても心が冷めてる感じが抜けない。
体を熱くしたいのに、逆に冷えていくような感覚があった。
それなのに、目の前の男といると何か調子が狂う。
「キレイだね。感動した。呼んでくれてありがとう」
「いや…別に…」
間が持たなくて、俺は目の前の缶ビールを飲み干した。

十二時を過ぎて、花は全開になったけれど、
写メでやたらと写真を撮る男とは一向にそんな雰囲気にならない。
しびれをきらして俺がシャワーを浴びると言ったら、やっと自分も貸してほしいと言った。
それでもベッドルームにはくる気配がない。
「……何してんの?」
「何って?」
「いや、だからさあ」
「ああ、ごめん。俺は本当に花を見に来ただけ」
「はあ?」
「期待させてごめんね」
「き……」
なんだ、その上から目線は。あまりの一言に呆然とし、まず確認しようと思い聞いた。
「あのバーがゲイ専用だって知らなかったとか?」
「いや、しってるよ。よく行く店だし」
「だったら……」
「よく知らない人と寝るとかできないたちなんだ」
「何それ」
「君の事が気にならなかったわけじゃないよ。
まず、話をしようよ。ああ、そうだ。名前を聞いてなかった」
「気になってた?」
「うん、そう。気になってた」
それから遅い自己紹介をし、たわいもない話をした。昔の話もした。
ゲイを意識した頃の話とか、家族の話とか。
誰にも言えなかった話がなぜかこいつにはできた。
どうして出来たのか、自分でもわからないけれど。

朝になって、目が覚めると、サボテンの花はしぼんでいた。
大量に飲み干したビールの缶もなかった。
そして、あいつもいなかった。
もしかしたら俺の願望が見せた夢だったのかもしれないと疑ったそのとき、
テーブルの上の名刺に気がついた。

そこにはこう書いてあった。

『楽しかったから、また会いたい。よろしく』

なぜか俺の目から涙が出た。俺は声をあげて泣き続けた。