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あくびの出そうな朝

 部活の合宿ともなると、みんなで深夜まで馬鹿騒ぎして、
翌日眠気を引きずりながら朝を迎えるのはよくあることだ。
木田も例によって仲のいい友達の部屋に押し掛け、こっそり
持ちこんだおやつを肴に深夜までカードゲームや雑談に興じていた。
 いつの間に寝ていたのだろう、ハッと目が覚めると友達の
部屋で椅子に座ったままの体勢で寝ていた。あたりに散らばった
トランプや菓子の袋を見て「しまった!」と頭が真っ白になった。
朝になれば起こしに来る先輩や顧問に見つかったら大目玉を
食らうのは目に見えていた。罰としてトレーニングメニューを
増やされたらたまらない。周りの友達を起こそうにもぐっすり
眠っていて起こしたらいけない気がして、木田はこっそり自分の
部屋に戻り、持参した大きなゴミ袋を持ってきた。
 あらかた片付いた部屋を見まわす。
 他の部屋に割り当てられた友達は薄情にも木田を置いて元の
部屋に戻ったようだった。トランプも菓子のゴミも片付いている。
あとは自分が戻ればいいだけだ。同室の奴は先ほど部屋に戻った
時に確認したらぐっすり夢の中だった。誰にもバレずに済みそうだ。
 窓の外は薄明るい。太陽が昇り始めたころだろうか。
 ほっと一息吐いて、音をたてないようにドアを開けた。
「木田?」
 廊下に出た途端に後ろから名前を呼ばれ、びく、と小さく跳ねる。
「……部長」
「なにしてんの?」
 振り向いた先には部長が、怪訝な顔をして立っていた。
咄嗟に手元のゴミ袋を隠そうとしたがすでに部長の視界に入っていた。
 ――終わった。
 部長は真面目を絵に描いたような人で、数分の遅刻も嫌う人だ。
合宿におやつを持ってくるなどと言う規則違反ともなればどうなるか
わかったものではない。木田は怒られるのを覚悟した。
「あー、その、ちゃんと片付けたのか、部屋」
 うつむいた木田は、へ、と気の抜けた声を出して顔を上げた。
「あっ……は、はい」
「じゃあそれ、今の内食堂のデカイゴミ箱の奥深くに突っ込んどけ。お疲れ様」
 大していさめることもなく軽い調子で言い放ち、木田の肩を
軽く叩いて、そのまま歩き出した。
「あの部長」
「なに、早く行かないとみんな起きてくるぞ」
「……ありがとうございます!」
 音を立てないように食堂に走りだす木田を見送る。
 本当は木田がゴミ袋をとりに行った段階で気付いてはいた。
しかし、部屋に戻って知らないふりをすればいいところを律儀に
片付けようとする様子がどこかかわいらしく、かつ面白かったために
なんとなく声をかけずにいたのだ。

 ――木田って面白い奴だったんだな。木田の背中を見ながら表情を
緩ませた。
 あくびを抑えながら部長は部屋に戻って行った。
 これからはちょっと絡んだりしてみようとふと思い、残り30分ほどの
眠りの世界に落ちていった。