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友人だけど主従

ホント、とんだ甘ちゃんなんだよ、あの方は。
この間の事だって、俺なんか庇っても長老連中に目をつけられるだけなのに。
そもそも、ああいう席に俺みたいなのを連れて行くのがおかしいでしょ?
連れて行くにしても、裏で待たせておくのが当然だ。
俺だって丁重にそう申し上げたんだよ?でも「友人を列席させるのに何の問題がある」だってさ。
あの後、爺様方に咎められたときも同じこと言っちゃってんの。

友人だって。笑っちゃうよね。

まあ、俺にも責任はあるんだけど。
あの方と俺って五歳違いなのね、俺の方が年上でさ。
あの方が生まれたときには「お前の主人はこの御方だ」って決められてたの。
で、丁度その頃、本家方面がごたごたしててね。
ウチの頭連中はそっちの方が忙しくて、あまりこっちまで目が届かない状況でさ。
だから俺、世話役の真似事してたんだよね。世話役っつーか、姉やの代わり?
遊び相手とか。寝かしつけたりとか。おやつの支度とか。

今思えば、あの家自体もたいがいだったよ。
旦那様も奥様も使用人の人達も、俺なんかに眉も顰めず普通に接してくんの。
ガキの俺があの方にちょっかい出してても、ニコニコ笑って見守ってるだけで
それどころか「いつもご苦労」なんて、お茶出してくれて。人間扱いしてくれてさ。
土地柄なのかね、皆どこかのんびりしてたっけ。揃いも揃ってお人好しで。
――だから、アンタらみたいなのに付け込まれちまったわけだけど。

要するに、あの方に「友人のようだ」なんて感覚を植えつけた要因の一端は、確実に俺なわけ。
三つ子の魂百までって言うからね。
俺の本分が何で俺の本来の仕事がどういう事か、もう知ってる癖に、今でもその感覚が抜けないみたい。

うん。
だからきっと、あの方はここに戻って来ちまうと思う。俺のことを心配してね。
ついでに言うと、アンタらのことも疑いきれてないから、確かめようとするだろうな。
御者にはよくよく言っておいたけど、あいつはあの方の頑固さにはまだ慣れてないから
そろそろ折れて引き返す頃合いじゃないかな。あいつの涙目になってる顔が目に浮かぶよ。

それでもって、この状況を見たら、多分、あの方はアンタを助けようとする。
命まで奪う必要はないだろうなんて、甘いことを仰るに違いないんだ。
たとえアンタが、自分の両親を陥れて殺したと認めたとしても、ね。
あの方はそういう方なんだ。な、とんだ甘ちゃんだろ?

そういうわけで、もう時間が無いんだよね。
八年前の事をアンタら一派に命令したのは誰か、吐いてくれる気になった?
っと、ごめんごめん。猿轡したままじゃ喋れないよね、ハイハイっと。
……あ、そう。そりゃ残念。アンタの命令主ってそんなに怖いんだ?

さて。
それじゃあ、あの方が戻ってこないうちに、アンタを殺して死体を片付けないとね。
さっき言った通り時間も無いことだし。え?…ああ、別に構わないよ。
アンタの命令主はこっちで地道に調べるから、無理に吐いてくれなくても。
んーどの家なんだろうなぁ……遠野か、国崎か、東雲か……何?今の中に答えあった?
まあいいや。他にもまだ居るしね、アンタの派閥の人間。
そんな大声で喚かないでくれよ。助けなんて来ませんって。

あーあ。もっと上手く立ち回れれば、時間をかけて旦那様と奥様の恨みを晴らせたのに。
ま、仕方ないか。
俺は、あの方の命と立場だけは、なんとしても守らないとならないから。


…………。
冥土の土産にもう一つ聞かせてやるよ。つーか、聞いてくれる?
実は俺ね、もうしばらくの間はあの方の「友人」で居たいだなんて、大それたことを思ってんの。
だから、俺の本性を間近で見られたくないんだわ。今はまだ。
時間を気にしてる最大の理由はソレ。……笑えるだろ?一番の甘ちゃんは誰だって話さ。