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面接に落ち続ける男と若社長

「フン!」
俺は郵便物入れに入っていた書類を破り去った。
面接まではいつもこぎ着けるのだが、結局またも不合格。
――これで666社目になる。
「おや、またダメだったんですか」
「!!貴様」
玄関の扉から身を乗り出して背後から覗いて来たのは許 明泰だ。
「フン、わざわざ俺の無様な姿を見に来たのか」
「トイレに起きたついでですよ。同棲してるんですからいい加減慣れたらどうです」
「気色悪い!同居といえ同居と!」
「ふぅ…つれないことですな」
こいつは俺が社長を勤めていた会社の元秘書で、今やT.T.C頭取の息子兼若社長。
俺だってこれでも昔は急逝した親父の跡を継いだ、れっきとした社長様だったのだ。
俺は図体と力だけの馬鹿だという自覚があるので、むやみに経営に茶々を出さなかった。
そしたらいつの間にか俺の会社は破産宣告せざるを得なくなり、社員は運良くこの秘書の親父の会社に丸ごと吸収されて、俺は不必要な存在となった。
闘ったらこんな細長い、イタリアンスーツを好んで着るような男なんか何でもないのに、社会ではそうはいかない。
俺はこいつにも社会にも負けたのだ。
書類審査だけなら警備会社なら楽々通るのに面接では落とされるのは、就職相談会に行って思い切って相談したら、「高慢な態度だから」と言われた。
そう育ったんだ仕方がないだろうという言い訳も通じない。社会は厳しい。もう29だし、このままじゃ駄目かもしれない。
だが、いつかは必ず自立はしなくてはならん。
「だから言ってるでは無いですか、克美様」
今のように慇懃無礼でイタリア服なぞ着ている香水臭い香港人に毎日毎日、
「私に素直に養われればいいのだと。はやく養子縁組いたしましょうよ、愛人(アイレン)」
……尻を撫でられないようになるためには!

「離れんかあぁああ!!!」
「おおっと」
俺より力は弱いはずなのに、動体視力がいいのか俺の攻撃が当たった試しはない。
イタリア男を気取った口髭を弄る手つきが俺の尻を触ったかと思うと糞忌々しい。
一刻もはやくこいつから離れたいのに、破産宣告出したせいで家も財産も差し押さえられ、帰る所が無い。
しかも呆然としているところをこいつのSPに車に担ぎ込まれ、強制的にコイツと同居。会社の後のことを聞かされると同時に体の関係を迫られ、退け……いまは何とか仕事:家事手伝いということで収まってるが。
――ん?思い出すと、こいつやけに段取りが良くないか?
「おい許、まさかお前」
「なんですかな」
問い質そうと振り向いた瞬間、目の前に許のアップがあり、反射的に頭を後退したというのに追い込まれ、キスされた。

「……ぐ、うああ!何をするか馬鹿野郎!!」
必死で口を拭う。鳥肌が立ったじゃないか!
「はっはっは、朝からごちそうさまです」
「……ああもういい!今日はお前朝飯抜きだ!」
「克美様ったら、三十路前にの癖に大人気の無いことを言わないでください。馬可愛いなもう」
「黙らんか阿呆が!!」
まったくこいつは!……ん?俺は今何をこいつに聞こうとしたんだったか。
「そうだ、今日は克美様も私の良く行く店のスーツを見に行きましょうよ。トールサイズもあるのできっと合う服が…いっそオーダーメードでも!」
「馬鹿言うな。面接にそんな格好する奴がいるか!俺でも分かるわ!」
忘れてしまったなら大した用件じゃないんだろう。
まあいいか。


【こうして段段と若社長に懐柔されていく元社長】