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見てないようで見てる

「なんだ、もう寝ちまったのか?」
今夜はオールで飲もうって約束してアパートに呼んだのに、同僚の遠野はすっかり夢の中だ。
いつの間に運んだのか、ベッドの上に置いてあったクッションを敷いて寝息を立てている。
俺は半分ほど中身の残ったビールの缶をテーブルに置いた。
テーブルの上には空き缶や食い散らかされたつまみの残骸が散乱している。
あいつコロッケは絶対付けろって言うから、わざわざ買ってきてやったのに…言ったからには全部食えよな
そう思いながら食い残しのコロッケを手づかみで口に運ぼうとするとした。
だがその手を、下から伸びてきた手が制止した。
「…食うな、俺の」
「遠野、起きたのか?」
「寝てない…ずっとみてた…」
そう言いながらも声は寝起き特有の擦れた声だ。
「嘘つけ」
そう言いながら俺は、あいている方の手で平野の額を軽く小突いた。
「お前最近仕事中も寝むそうだよな、ちゃんと寝てんのか?いい加減にしないと注意受けるぞ」
「ん…深夜ドラマ…見てる。でも…仕事中は寝てない。起きてる…」
「あのなー!俺がどれだけフォローしてやってるか知らねえだろ…この間だって…」
「会議の時…俺がさされそうになったから、割り込んで発表してくれた…よな」
「え?」
気付いてたのか?俺には完ぺき爆睡していたように見えたが
「…デスクでうとうとしていた時にも、部長の席から見えないように隠してくれたし…」
「そこまで知ってんのかよ」
遠野の指摘に俺は少し照れた。全然気付かれていないと思っていたのに、何処まで見てるんだよ
月並みだけど背中に第3の目でもついてんのか?
「全部知ってる…お前が、いつも…俺のことばっかり見てる…から」
「なっ…!」
恐らくは眠気ゆえの無意識なのだろう、目を半開きにしてぼそぼそ話していた奴は急に俺がつかんでいた
コロッケの欠片を俺の指ごとくわえた。
ねっとりとした温かい感触に俺はビクリと身を震わせる。
だが当然というか、奴はコロッケを食っただけで満足してしまったらしい
「…うまい」
そう呟くと、目を閉じて再び夢の世界に行ってしまった。

後に残されたのは言いようもない気持ちで座り込む俺とテーブルの上の残骸
「…どうすりゃいいんだよ…」
ため息とともに呟いても、答えてくれる相手にはもう届かない
明日になったらどんな顔をして会えばいいんだろう?
それとも明日になったらコイツは夢うつつの間のことなんてすっかり忘れているだろうか?
そんなことを悶々と考えながら、俺は眠れない夜を過ごしたのだった。