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偽装結婚

いわゆる限界集落に住んでいる。
子供の頃からの生家ってだけでこだわりもなかったが、田舎だが市内まで一時間強と不便もないので
一昨年親が死んだ後もそのまま暮らしていた。
集落の人は、みんなそれなりにいい人だ。
不幸が続きひとり暮らしとなった俺に、ぽつりぽつりとやれ野菜だ、それよりおかずだ、
米はあるか、酒を飲むかと世話を焼いてくれた。
正直お節介が過ぎることもあったが、兄弟もいない俺が天涯孤独の寂しさからどうにか立ち直れたのは
ひとえにじいさん、ばあさん達のおかげだった。
……いや、違う。あいつもいた。認めがたいが、ひとりで過ごさずに済んだ、という意味では
あいつの世話にもなったのだ。
「集落のタカユキさんからもらった茄子をな、麻婆茄子にしてみた。ビールとあうよ。
 それから食っても食ってもなくならないミニトマト、ごまドレで死ぬ気で食え。
 ミツロウさんが今日も持ってきてくれたからな」
飯係の伊藤は、親父の四十九日が過ぎる頃突然荷物と共にやってきて家に住み着いた同僚だ。
──水漏れがあって今の部屋住めなくなったんだ。一週間でいいから部屋貸して。
その時すでに伊藤はアパートを引き払っていたのだ。
──だって給料安いじゃん、家賃苦しかったんだもーん。
蹴り出そうとする俺にしゃあしゃあと抜かすもんだから、アパートと同額の家賃をふっかけたら
出て行くにも敷金がないときた。
でもやっぱり俺も弱ってたんだろうな。なし崩しにそのまま。
料理をやってくれるのが効いて、いつの間にか2年近くも同居。

それが、困ったことになった。
「浩之ちゃんもねぇ……いつまでも独り身じゃ寂しいでしょう。
 ほら、あたしの娘の旦那の妹のイトコの子がねぇ……いいお年だって娘が言うから」
見合い話が持ち込まれたのだ。
いや、見合いだけなら特に問題はない。いつもどおり適当に断るだけだ。それを。
「サチヨさんー、もう、困るなぁ見合いなんて」
と、一緒に聞いていた伊藤が口をはさんだのだ。余談だがこいつ、既に集落中の人と茶を飲む仲だ。
「浩之さんはね、見合いなんてしませんよ。……僕たちの仲、察してほしいな」
「あらぁ……まあ……まさかあんたたち……男同士でおかしいと思ってはいたけど……あらまぁ」
「んー、ぶっちゃけ、まあ嫁っていったら俺っていうか。そこは……ね、まぁ」
秘密ですよ、と伊藤が言ったところで、集落中の年寄りが心臓止まる思いするのに3時間もかからなかっただろう。
「──馬鹿たれ! どーすんだよお前、みんな誤解するだろ!」
頭抱えた俺に
「だってサチヨちゃん何度も来るでしょ、めんどくさいし。冗談冗談ーって後から言えるし」
と伊藤は平気な顔でうそぶき、ふと目を伏せて
「そういうことにしときましょうよ……どうせ、嘘でしか言えないでしょこんなこと」
その口元にだけ浮かぶ、奇妙に苦い笑みを見てしまった俺は……今夜からどうしたらいいんだろう。