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共犯者

…えェ、ですから私は共犯者なんです。
藤野が?全て罪を認めると?
いいですか…イイエ、毛布なんぞ要りませんよ。飴玉?子供扱いしないで下さいよ。
水?そんなら一杯頂きます…

…フゥ。

いいですか、藤野が何と言ったかは知りませんが、私は藤野の共犯者なんです。
えェ、私は四宮の長男です…そして藤野は我が家に出入りしていた庭師です…
坊っちゃんと呼ぶのは止めて下さい。幼く見えましょうが私はもう十八です。
そうです。来月祝言を挙げる事になっていました。そしてゆくゆくは四宮商事を継がされる…
結構じゃあありませんよ。冗談じゃない。毎日ゝゝ息が詰まりそうでした。

藤野とは良く話をしました。口を利いている所を見つかりますと叱られましたので、こっそりと障子越しに話を。
イエなにという事もない話です。しかし私の知らない世界の話でした。
年もそう変わらないのに、私は世間を知らないものですから、とても興味深かった。
故郷の話も良く聞きました。山があって川があって、空の高く青い…

そんな話をしているうちにぽろりと溢してしまったのです。藤野の故郷へ行きたい、と。
丁度初めて婚約者の写真が送られて来た日でした。いや、お可愛らしいお方でしたよ。
しかしはっきりと悟ってしまったのです。
私はこの方の事を何とも思っていない、この結婚はお互いに哀れになるだけだ、と。
…いえ、もしかしたら私ははなから時機を待っていたのかも知れません。
どうした訳か、私はその時藤野も同じ事を考えていると確信していました。同じ気持ちでいると。
そして障子を開けたのです。
果たして藤野は、私と同じ目をしていました。
行きましょう、と言ってくれたのです。

家中のお金をかき集め、車を一台失敬して家を飛び出しました。
あれ程大きく見えた我が家の門が遠ざかる程に、私の心は晴れやかになっていきました。
私は腹の底から愉快でした。藤野と目が合うだけで笑いが込み上げて来ました。
藤野も見た事もない顔で笑っていました。何しろ真面目に仕事をする姿しか見た事がないのですから。
…そうです、其れが十五日…そして北へ北へと向かいました。藤野の美しい故郷へと…


何もかも初めて見るものばかりでした。
東京を離れて行くにつれて田畑が増え、あれは何の畑、其れは何の畑と藤野が教えてくれました。
何も食料を持って出ませんでしたので、昼過ぎでしょうか、車を停め、
青々と実っていた胡瓜を少しばかり失敬してそのままかじりつきました。小川の水を掬ってごくごくと飲みました。
とても美味しかった。こんなに胡瓜と水を美味しいと思った事はありませんでした。
あァそうだ、此れも罪状に付け加えておいて下さいね。あくまでも共犯ですよ。

そして温泉街に出たのでその日は宿をとりました。…はた屋?はァ、そこまで調べがついているのですね。
…何です?下世話な興味は控え…いい加減にして下さい。訴えますよ。
兎も角、一泊して朝には発ちました。野を越え山を越え、暗くなる前には藤野の故郷に着きました。
本当に綺麗な所でした。空は真っ赤に染まり、山も赤々と照らされ、まるでそこかしこが燃えているようでした。
何故だか私はとても懐かしいような、泣きたいような気持ちに捕らわれました。
ふと藤野を見ると、藤野も私と同じ、泣き笑いのような顔をしていました。

…そこからはご存知の通りです。藤野の実家には家から既に連絡がいっており、私達は貴方がたに捕らえられました。
一瞬だけ見かけた藤野のお母様の目は哀しそうで、瞬間とても申し訳ない気持ちになりました。
えェ、この様な次第ですから、藤野が罪に問われるというなら私はその共犯者なのです。
被害者?とんでもない。誘拐?そんな馬鹿な!
おおかた私の家の者が力をかけているのでしょうが…一寸待って下さい。何、何を書いているんです?
まるで違うではありませんか!私は藤野に脅されてなどいない!心神を衰弱など!私はまともだ!
聞いて下さい、ねェ、私は家の金を盗み、車を盗み逃げたんです…私は共犯です…!いえ、私こそが主犯です!
藤野はただ私を、あの家から逃そうとしてくれたんです…あの監獄から…あァ、藤野…
藤野は何処にいるんです?話を、話をさせては貰えませんか?お願いします…
何処か近くの部屋にいるのでしょう?お願いです、後生ですから…藤野…!
何ですか、迎え?嫌だ、私は家に戻るつもりなどない…!
聞いて下さい!聞いて下さい、私の話を…!

私の、私達のした事が一体何の罪になるというのか…!