携帯電話
携帯電話が嫌いだ。どこへ行っても着信する。ワン切り、スパムメールが鬱陶しい。電源を切っておくと「どうして切ってるんだ」と言われる。つまり自由が奪われる。
携帯電話に電話をかけるのも嫌いだ。電波が悪いとぶつぶつ切れる。切れるたびにお互いにかけ直して、あげく話中音がしたりするとキレそうになる。
さらに。
喫茶店で向かい合って会話してるってのに、半月ぶりに会ったバカヤロ様は、突然携帯電話を取り出してピコピコとメールを打ち始める。
俺は突然会話を切られて、黙ってコーヒーを飲むしかない。
携帯電話なんか、大嫌いだ。
ようやくメールの返信を終えて、バカヤローは俺に視線を戻す。
「何の話だったっけ?」
「知らん」
沈黙。
お前もたまには会話をぶっつり切られる気分を味わってみろ。
ちらりとテーブルの向こう側を見ると、ほくそ笑むという表現がぴったりな言葉で笑っている男がいた。
携帯電話は嫌いだ。
一番嫌いな理由は、俺があの小さい機械に嫉妬しているという事実のせいだ。
そしてこのバカヤローが、そのことを知っていてわざと俺の目の前で誰かにメールをするということだ。
最終更新:2010年06月06日 03:05