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ギタリストとピアニストの恋

――ドア越しから漏れるピアノの音。

壁にもたれかかりながら、その旋律を聞いていた。
何の曲だろうか。ギター専門の俺には、クラシックはわからない。
傍で聞かなくてもわかるほど滑らかな旋律。
白く、細い指が奏でる音色。

だが今後の事を思うと、ピアノが持つ独特の優しい音色も、悲しく聞こえる。
二年前の冬。ライブ場所にいたあいつに、声をかけられたというありきたりな出会い。
最初はピアノが嫌いで、俺が持つようなギターに憧れていたが
弾いているうちにピアノが好きになり、それからピアニストとしての道を進むようになったらしい。

ジャンルも違うギターとピアノ。
俺はそれでも、惹かれていた。
滑らかに弾くあいつの白い指に、目が釘付けになった。
気がついたら俺は、あいつに恋愛感情を抱いていた。


いつだったか。
自分で作った歌をあいつに聞かせてやったあと、
俺はギターを教えてやろうと思ったんだ。
遠慮するあいつにギターを差し出すと
「ピアノにはピアノの、ギターにはギターの雰囲気があるから。
ピアニストである僕がギターを弾いてしまったら
ギターの雰囲気が崩れてしまう。
逆に、ギタリストの君がピアノを弾いてしまったら、ピアノの雰囲気が崩れてしまう。」
って言われたことがあった。

その時、「ああ、あいつと同じ道歩くの無理なんだな」って痛いくらい感じた。
そういう時期に、メンバー解散。俺はボーカルの凛ってやつと一緒に海外で活動することに決定。
俺は凛に弱みを握られてる。ピアニストのあいつが好きだということを知っている。
反対すれば知人・友人全てにばらされる。
こんなのってありかよ。
なあ…俺、好きでもないやつと遠いところに行くんだぞ?

…お前が見えないところに、話すことも出来ないところに。

昨日呼び出して、「凛と海外に行く」って言ったらあいつ…笑ったんだ。
笑顔で、「よかったね。いってらっしゃい。」って。

なんだよ、いってらっしゃいって。
お前は俺のこと、なんとも思ってないのか?
親父もおふくろも海外で一生過ごすとか言ってるし、凛に弱み握られてるし
俺はもう二度と戻って来れないんだぞ。

お前にとって俺ってなんだった?
ただの知人友人か?ギタリストか?
俺はお前ともっと一緒にいたい。
俺、お前が好きなんだよ…。


「…なにやってんの?流花。」

――気がつくと俺の後ろには、凛が腕組みをして立っていた。
俺より二つ年下だが、ソロでもやっていけると言えるほど、歌は上手い。
グループも解散したんだ。顔もいいから、勝手に一人でやっていけばいいのに。
なのにこいつは。俺を連れて行く。
「…なあ、一つ聞いていいか。」
「なに?」
「何でお前、俺を連れていくんだ?」
腕組みをしてる凛に問う。
すると凛は腕をほどき、笑って俺に言った。
「…お前と一緒だよ、流花。
好きなんだ。お前が。
流花はあっちが好き。多分、あっちも流花が好き。でも俺はお前が好き。
両想いを引き裂いてごめんね。でも耐えられないから。
ジャンル違うのに、くっつくお前らが。」
「自分勝手だな。」
「なんとでも言えばいいよ。俺はお前が好き。だから連れて行く。」

―想い、想われ…その結果がこれか。

「…ほら、もう行かないと間に合わないよ?流花。」
「………………。」
歩き出す凛を尻目に、俺はドアの前にそっと手紙を置いた。
気がつく凛が俺に問う。
「なにそれ、ラブレター?」
「…間に合わなくなるんだろ。行くぞ。」
「ははは。つれないねえ。…行こうか。」

いつの間にか頬を伝っていた涙を拭いもせず、俺は凛の後をついていこうとして…振り返った。
ピアノの音が止まったからだ。
…だが、それもほんの一瞬のことで。
「さよなら。」とだけ言って、俺は凛の後をついていった。