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完璧

 斜め前の席に座る奴に目を走らせる。俺が一番嫌いな奴。
 不動の学年主席。頭が良いだけじゃなく、運動もできる。品行方正。顔も良い。人当たりも良い。家は医者だとかで、金もある。
 つまるところ、完璧。どこのマンガのキャラだ。…いや、マンガなんて読んだことないけど。読んでる暇あるなら勉強する。
 コイツのおかげで俺は万年次席。運動はできない。顔は…平凡?敵は山ほど作るけど友達は作らない。面倒なだけ。家も平凡。まあ、勝てることは何もないわけだ。

 授業が終わった。机の上を片付けて席を立つ――目の前に、あいつ。
「どこ行くの?」
 無視。教えてやる必要はない。よけて教室を出るが、後ろからついてくる気配があった。うっとうしい。
 俺が人気のない方へ足を伸ばすとまた声をかけてくる。
「こっち、図書室だよね?昼ごはんは?食べないの?」
 さっさと教室戻れ。俺は財布忘れたんだ――などとは言えない。いや、それよりも。お前こそメシはどうした。いつも一緒に食ってる奴らがいるだろう。あいつらも、こいつが俺と一緒にいるのが嫌なら後で文句言うんじゃなく、こいつ引きとめておいてくれ。
 図書室に着いても横を歩く。…何で横。
「ねえ、」
「うるさい。図書室は私語禁止」
「人いないから良くない?」
 良くない。人がいなけりゃ話して良いとか、そういう問題じゃないだろう。それにしても、よく懲りもせず話しかけてくるもんだ。まともに接したことはないはずだけど。理解できない。
 目当ての本棚へ向かいながら、後ろを歩く奴を(図書室の中で横に並ぶと狭くて仕方がないので後ろに下がったらしい)どうするか考える。黙らせることには成功したが自分で私語禁止と言った手前、教室戻れと言うのも躊躇われる。先にこっち言っておくんだった。
 探していた本を持って、一番奥にある机へ。人が来なくて気に入っている場所、なのだが。俺が座るとあいつは当然のような顔で隣に座る。だから、何で隣に来るんだ。

「……」
 本を開き、読み始めること数分。本の上に開かれた生徒手帳が置かれた。後ろの方についている白紙のページに何か書かれていた。
『それ、面白い?』
 俺が言った私語禁止を律儀に守っているらしい。でも、邪魔だ。すごく。払いのけるついでに睨んでやったが、微笑みが返ってきただけ。腹がたつ。
『勉強熱心だよね』
 どこぞの誰かさんに勝ちたいんですがね。
『尊敬するよ』
 嫌味か、この野郎。
 生徒手帳をどこか適当なところへ投げ捨てる。昼食も摂らずについて来て、わざわざ俺の読書を邪魔。何がしたいんだ。
 これ以上読書を続けるのは諦めて貸し出し手続きをする。生徒手帳を拾ったあいつが横にいるのが気に食わない。図書室を出て、あいつへ向き直る。背が高いのも癪にさわる。見下ろされているのが不快だ。
「ついて来るな、うっとうしい!」
「話そうと思っても、君が逃げるから」
「俺に話すことなんか何もない。というか、話し相手がほしいなら他にもいるだろ。そっち行け。俺のところになんか来るな。迷惑」
「誰でも良いんじゃなくて、君と話したいんだけど」
 …これだけ言ったのに、まだ言うか。頼むから消えてくれ。
 溜め息をついて、教室に戻る。いろいろ話しかけられたけど、完全に無視。
 気障ったらしく開けてくれたドアを先にくぐり、あいつの鼻先でぴしゃりと閉める。もう一つのドアへ向かう俺に少し遅れて入ってきたあいつは、予定通り教室にいた奴らに声をかけられて彼らの席へ連れられて行った。
 ようやく一息ついた俺は、再び教室を出て図書室へ向かった。――…静かになって、ほんの少しだけ物足りないと思ったことは、死んでも口外するつもりはない。